私って跡部のことどう思ってるんだろう。布団の中で毎晩考えた。
跡部はいつも強い。なんでも。負けることなんて知らないみたいに。実際には中学の時に全国大会で越前くんに負けたし、負けることを知ってはいるけど、それでも知らないみたいにいつでも強い。
私はそんな跡部を、全く違う人種だと思っていたと思う。それこそ、天使と人間くらい違うんじゃないかと。だから「跡部なら」とか「跡部だから」とか跡部という一つのカテゴリを作り上げていたんだろう。今の気持ちとしては「そんな跡部がまさか」だ。
跡部も恋をするのか。しかも、私みたいな超平凡な女に。そこがまず訳が分からない。そもそも私は恋をしたことがないのだ、それも混乱する一因だったと思う。恋ってなんだろう、訳が分からない。
ぐるぐると同じところ回ってから私はいつのまにか眠りについている。つまり毎晩何も進歩しないまま、大きな荷物をたくさん抱えて私はアメリカへ渡ったのだった。

跡部からのメッセージが携帯を揺らしたのは、色々な説明を受けて、色々な案内を受けて、やっと部屋でゆっくりできた、とベッドに沈み込んでいるときだった。

『そっちはどうだ?』

オカンかよ。
ごろん、と仰向けに寝転がって携帯に向かって笑ってしまった。跡部ってこういうところがあるよなぁ。世話焼きというか面倒見がいいというか。なんか、ホッとした。実際には会ってはないけど、久しぶりに知っている人に会ったような気持ちになった。まだ1日目なんだけど、それくらいアメリカは日本と違っているから、少し疲れてるんだな、私。でもそれが面白いのも確かだ。

『面白いよ。
そっちはどう?私がいなくてみんな寂しがってない?』

いつもみたいな軽口を送って、携帯を枕元に置いた。お腹に手を当てて、ふう、とため息をつく。日本にいたなら、今の時間帯はみんなで帰る支度をしているはずだった。騒ぐみんなの声が聞こえた気がした。こうやって離れてみると、毎日の部活って楽しいものだったんだな。ホームシックならぬ部活シックだ。シックというか、中学から続けてる習慣みたいなものだから部活がないことにしっくりきてないのかも。今日から3ヶ月、部活はない。その事実がまた新鮮だった。

『さぁな。俺ぐらいじゃねぇのか』

こんな、想像をしたこともない跡部のメッセージを貰うのだって新鮮すぎる。
そうだった。跡部は私が好きなんだった。そう思うとメッセージを返す指が固まった。どう返信したらいいのだろう。分からん。どうしよう。これ、少なくとも跡部は寂しがってるってことだよね?そんなこと思いもしなかったけど、そうか。うわ、うん、そうか。
『すみません』違うな『なんかごめん』いやこれも違うな『すんまそん』正解が見つからない。書いては消して書いては消した。あんまり返信に時間がかかるのも変だな、と考えれば考えるほど返信の内容が思い浮かばない。泥沼。

『それはどうもありがとう。
あと3ヶ月の我慢だよ』

合ってる?これ合ってる?いつもの私ってこんな感じだけど、私のことを好きだと思ってる人に対する対応として合ってる?っていうかそれに見合った対応って何?それって必要?
あーーーめんどくさい。

『そうだな。
今日は疲れただろ。さっさと寝ろ』

あう。めんどくさいとか思ってごめん。優しいな跡部。
跡部って、でも、そう、優しいんだよな。なんだかんだで。跡部が私たちを見捨てることって、ないもんな。気前はいいし、面倒見もいいし、勉強だって教えてくれるし、私が英語に苦手意識がつかなくなったのは跡部がつきっきりで見てくれたおかげかもしれない。教えてくれる人がいるという安心感があったというか。
私って、私たちって、跡部に甘えっぱなしなんだよなぁ。なんだかんだでいい奴ってことは確かだ。そりゃ「この野郎」なんて思う時もあるけど。
その跡部に、私は真っ直ぐ向き合わなきゃいけないのだ。付き合うか付き合わないか、付き合うとしたら好きにならなきゃおかしいし、付き合わないとしてもその後の関係の変化を覚悟しなきゃいけない。今までの関係が一番楽だったことは確かだけど、跡部だって決心して覚悟して私に思いを告げたのだ。それに、きちんと向き合わないと。

『ありがとう。
跡部も今日もお疲れ様、おやすみ』

今度は指が迷うことなくメッセージを書いてくれた。うん、これでいい。これが私らしいし、きっとこれが向き合うってことだろう。多分。恐らく。


次の日、オリエンテーションでイタリア系の留学生に「君は天使のようだ!」と熱烈に言われた。「天使」という言葉に跡部を思い出して、そっちに顔が赤くなってしまった。イタリア系の垂れた甘い目元もかっこよかったけど、跡部のあの時のあのキリッとした目があの時みたいに私の体を凍らせた。

『今日はどうだった?』

昨日より跡部のメッセージにドキドキしてるような私がいるような気がするような、しないような。昨日と今日は確実に違うのだ、と枕に顔を突っ込んだ。


20180308
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