バルティゴの子供達の年齢層は幅広い。その時々によるが、時には幼稚園のようである。そもそも私もそんな中で育ってきたので特に何も思わないが、時たま私は保母さんに向いていたのでは?と思うことはあった。

「ナマエ、これよんで!」

図書室で本を選んでいたら、小さな影が私の足元にやってきてそう言った。差し出された絵本は私も幼い頃に何度も読んだ本だった。確か、途中のページが誰かに破られていてテープで補強してあるはずだ。
私、これでも今日仕事中なんだけどなぁと思いつつ小さな手が私のズボンを掴んでいるのがどうにも可愛くて抗えない。

「一冊だけだよ?」

そう言って受け取ってテーブルにつくと、その子だけではなく図書室にいた数人も周りに集まってくる。ああ、懐かしいな、私もこうしてたまに大人が読んでくれる時間が好きだった。
図書室には数人大人もいたが、私が読み聞かせをすることが分かったのか目が合うと「どうぞ」とジェスチャーをして促してくれた。本当に優しい人が集まったいい環境だと思う。この子たちもいつかそうやって促したり、はたまた読み聞かせをすることになるだろう。

「ゆっくりよんでね」
「はいはい」

可愛いおねだりに笑って答えて、本を開くとみんなが身を乗り出したからそれにまた笑った。
題名を読み上げて冒頭を読もうとすると、タイミングよく図書室に入ってきたのはサボだった。一瞬目があったけど読み聞かせを中断させないようにすぐ絵本に視線を戻す。
気配でなんとなく本を探しているのが分かって、聞こえてるんだろうと思うと気恥ずかしくて少しスピードが早くなってしまった。子供たちは気づいていないがこれは約束に反してしまう、とサボを意識から追いやって絵本に集中した。
ぺらり、と次のページをめくったらその合間にサボは私の視界に入るところに座った。いやいやいや仕事に戻ってくれよ。タイミングを見てチラリとサボを盗み見れば、頬杖ついて私の読み聞かせをニコニコ笑って聞いていた。わざとだ、意地が悪い。
もう無視だ無視、気にしてたらきりがない。終わった後に存分に文句を言えばいいのだ。

最後の行を読んで本を閉じてみんなを見ると、目が合って笑った。「つぎはこれ」と数冊差し出されて、やっぱりか、と苦笑いをする。私も昔、そうやって大人たちを困らせたものだ。

「一冊だけの約束だよ」
「ええー」
「ごめんね」
「あ、もうこんなじかんだ」
「ほんとだ」
「いかなきゃ」

子供たちは何かスケジュールがあるのか、そう口々に言ってパタパタと本を戻したり、本を持ったままパタパタと図書室から出て行った。助かった、とホッとしていたら最後に出て行く子供が「サボがねてる」とクスクス笑っていたから目を向ける。
いやなんで君が寝てるのかな。
サボはおでこを机にくっつけて寝ていた。その役目、さっきの子供たちでないのか。
とはいえ仕事の多い参謀総長様でもある。横に積まれた本も小難しいタイトルのものばかりだった。

「サボ、サボ」
「…ん……」
「仕事は?大丈夫?」
「あー…」

サボは寝ぼけ眼で私を見上げると、ぐーっと背伸びをして「寝てた」と呟く。知ってた。

「あの短時間でよく眠れたね」
「いい声だったもんで」

嫌味を言ったのに返ってきた突然の言葉に顔が赤くなるのを感じた。サボは最初に読み聞かせを聞いていたときみたいにニコニコしているから何がそんなに楽しいのか聞きたくなるというものだ。

「昔からナマエの読み聞かせは結構好きだ」

ん?歳の近いサボに読み聞かせなんかしたことないけど。
サボがここに来たのは10歳だし、私が読み聞かせをするようになったのは13歳とか14歳とかその辺だ。あれ、でも確かに、こういう風に図書室で読み聞かせをしてたらサボが偶然居合わせてたことがあったような記憶があるな。
あれはまだ、私が異性としてサボを意識する前だったけど。

「……ねぇ」
「ん?」
「サボっていつから私のこと好きだったの?」
「さぁ、仕事に戻るか」
「あ」

ひょいっと積んであった本を持つと、サボは振り返りもせずに戻っていった。多分照れ隠しである。
さっきの子供たちより随分大きな背中を見ながら、考えた。私がサボを意識するようになったのは、確かサボが演習後に上半身裸になった時だ。こんな環境だから異性の上半身なんか見慣れてるもんだけど何故かサボだけにときめいたのだ。当時の私は変態になってしまったのかと不安になったものだけど、なんて事はない、いつのまにか恋に落ちていただけだ。今になってもなかなか人様に言えるようなきっかけではないけれど。
でもそういう訳のわからないときめきって、日常どこにでもあるのかもしれない。例えばサボが机に忘れていったペンとか。そんなに聞かれたら恥ずかしいことだったのかな。
そのペンを掴んで私はサボの元へと向かった。そしてそのペンは、数週間後こんな手紙を書いていた。

『ナマエへ

◯月◯日
一週間後には帰る

サボ』

知ってるよ。最初に書類を見た時から書いてたから知ってるよ。
なんて簡素な手紙だ、これなら電伝虫でも良かったのでは?
とか思いながらニヤケが止まらない私は、その手紙を机の引き出しにあるお菓子の缶に大事に大事に仕舞うのでした。


20180301
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