ふと回ってきた書類に目を通すと、サボの名前があった。また来週から一ヶ月の任務らしい。ついこの間帰ってきたばかりな気がするけど、また一ヶ月会えないのか。
仕方がない。仕方がないけど落ち込む。ここ数日穏やかで幸せな日々だったから、余計に。
書類に確認のサインを殴るように書き、次の人に回した。あーあ。私も連れて行ってくれないかなぁ。

あーあ。この夜食を食べながら本を読んでるサボともあと少しでお別れかぁ。
ソファで隣同士に座って、私は紅茶、サボは差し入れのサンドウィッチを頬張っている。この本も、もしかしたら来週の任務の下調べなのかもしれない。そう思うと罪のない本まで憎い。そんな本より私を見てほしい。あと数日しか一緒にいられない、私を。

「…美味しい?」
「うん」
「…来週からまた任務だね」
「ああ」
「寂しくなる」
「そうか」

かっちーん。
本に夢中なのかサンドウィッチに夢中なのか、私への返事は生返事そのものだった。なんだこれ、なんかデジャヴだぞ、と思ったら、そうだ、電伝虫のときのサボだ。要件人間と言われるだけあってサボの電伝虫は私のときでさえ短い。
こんなに近くに、少し手を伸ばせば触ることができるのに、何でこんな会話だ。電伝虫と変わらない。というか私が寂しいの落ち込むのもアンタの電伝虫が短くて手紙の一枚も送ってこないからだろーが!

「サーボーくーんーさーあー」
「あんらひょ!」

コアラがするみたいに頬を掴んで伸ばすと、サボは邪魔すんなよ、と言いたげに文句を言った。文句を言いたいのはこっちの方だ。

「私寂しいんですけど!」
「あにがらひょ」
「何がだよじゃない!一ヶ月だよ、一ヶ月!その間サボは忙しいだろうけど電伝虫も手紙の一枚もないじゃない!私は!寂しい!」
「痛ってぇ」

怒りながら手を離すと、サボは両手を頬に当てて抗議した。私の心だって痛い。生きるか死ぬかの戦場に送り出すのに、一ヶ月ほとんど何も連絡がとれずに心配で不安でふと思い出しては走り出したいような衝動に駆られるのだ。そんな私の気持ちをサボは何も分かっちゃいない。

「電伝虫か手紙書いてよ」
「分かったよ」
「いや分かってないよ何回このくだりしたかな」
「分かってんならしなきゃいいだろ」
「ほんとムカつくほんと嫌い」
「へぇ?」

私の言葉にサボは興味深い、とでも言うように笑ってやっと本を閉じた。テーブルに本を置いて、私の顔を覗き込むように背を丸める。意地悪な顔だ。

「嫌いか?」

嫌いなわけがない。嫌いじゃなくて好きだから、不安だし心配だし寂しいのだ。彼の私を見つめる目が、笑う唇が、ふわふわ揺れる髪の毛が、全てが好きだから無くしたくないのだ。
何も言わずに不満げな顔をしているだろう私にサボはニカッと笑うと、私の手をさらって指を絡ませた。この体温が、全部が好きなんだ。

「…電伝虫と手紙くれないところが嫌い」
「ははっ」

だから今回も私は「今回はお願いね」「分かったよ」なんて守られもしない約束をするのだった。あーあ。これが惚れた弱みってやつですかねぇ。


20180223
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