私がマネージャーとして所属している氷帝学園中等部男子テニス部の部長、跡部景吾はすごい。何がすごいって顔良し、頭良し、家柄良し、テニスにおいてもトップクラスで嫉妬しても悪口も出ないだろう。

「もっと綺麗に食えねぇのか、お前は」

訂正しよう、性格が悪い。悪いというか、気が強くて俺様で他人を屈服させるのが好きだ。そういえば私も部員たちも結構悪口言ってるわ。とにかく何においても規格外、とだけ言っておこう。
跡部に貶されて、私は食べていたケーキのお皿をチラリと見た。まぁ、ただのショートケーキを食べるにしては少し散らかりすぎてるかもしれない。でも苺とスポンジをいい割合で食べるには仕方のないことだ。
カフェテラスでは昼休みを優雅に過ごす生徒が多い中、私は跡部と共に過ごしている。というか偶然会ったのでケーキをねだった。女生徒たちの熱い視線が少しばかり痛いが、テニス部に入って随分慣れたものである。自分で言うのもなんだが、少し図太くなったと思う。

「育ちが悪いもんで」
「そうかよ」

フッ、と笑って跡部は優雅に紅茶を口にした。私もならって、せめてもの抵抗に左手を添えて両手で飲んでみたり。跡部と目が合って笑われたり。ちくしょう。何でも見透かしてるような目だ。

「今日はいつもの奴らはいいのか」
「え?あぁ」

いつもの奴ら、とは私がいつも一緒にいる友達のことである。三人いるから、いつも四人でいるけど今日はカフェテラスに一人で来た。本当はテニス部の誰かがいれば一緒に食べようと思ったけど、誰もいなかったので一人でお昼ご飯を食べた後に跡部と会ってこうして一緒に食後のティータイムをしている。

「一人は部活動で休み、一人は風邪で休み、一人は彼氏くんとどっか行った」
「ハッ、置いていかれたな」
「別にいいよ。子供じゃないし」
「違ぇよ、恋愛において」
「…別にいいよ。子供だから」
「都合のいい言葉だな」

跡部は何が楽しいのか、頬杖をついて口の端をニヤリと上げた。モテる人は余裕があっていいですね、そうですね、性格悪いけどね。とはいえ私も図太いですから。

「跡部だって彼女いないじゃん」
「候補者は腐るほどいるんだがな」
「はーーーーーん」
「お前は?」
「候補者?いたらここに一人で寂しく来てなくない?」
「尤もだ」
「ってか大体跡部は候補者か腐るほどいたってお眼鏡に叶う人がいないよ」
「アーン?」
「だって顔良し、頭良し、家柄良し、加えて跡部の性格に合う人でしょ?天使じゃん。もうそれ人間じゃないよ、天使じゃん。存在しないよ」
「成る程な」

いや成る程な、じゃねーよ。
私のツッコミは紅茶と一緒に飲み込んだ。いいのだ、この3年間で分かっているのだ、跡部はこういう男なのだ。何を言っても無駄なのだ。
跡部は私が紅茶を置くタイミングで「だが」と言葉を挟んだ。跡部の声はとても通る。低くて、空気が震えるように響いて、時たま私の頭にズガンと突き刺さる。

「顔も頭も家柄も関係ねぇよ。俺にとって天使なら、それで」

だからこんな台詞も恥ずかしげがないのだろう。私は、聞いてるだけで結構恥ずかしいけど、やっぱり紅茶で誤魔化した。柔らかく笑う唇が、長い睫毛が、青い瞳が、憎たらしいほど美しかった。

それから数ヶ月後、私たちは高等部へ入学した。何も変わらない、強いて言えば制服と校舎が変わっただけだった。相も変わらず私はテニス部のマネージャーをしているし、相も変わらず彼氏はいない。
そんな時、留学の話が舞い込んだ。氷帝学園で留学は珍しくない。私の友達も何人も留学したし、みんな楽しかったと言っていたから私も興味があった。期間は3ヶ月間。アメリカ。ちょうど良いのでは?
留学が正式に決まってから報告するとテニス部のメンバーは口々に「お前大丈夫かよ」「そんな英語得意じゃねーだろ」「寂Cよー」「今から勉強しときや」とか、まぁ、色々言ってきたけど先生から話をしてきたから大丈夫だろう。何とかなるなる。
跡部は黙っていた。黙っていたくせに、みんなが部室から出て行って二人きりになったあと、こう私に言ったのだ。

「お前が好きだ」

え?なに?私っていつの間に跡部の天使だったの?


20180224
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