窓の外から盛り上がった声が聞こえる。人々の歓声と、空気を大きく唸らせる音。ひょいっと窓から顔を出してみれば大きな火柱が轟々と立ち昇っていた。サボだ。
サボともう一人、あれはハックかな。どうやら二人で演習でもやってるようだ。エキシビションマッチのようなそれに、みんなは二人を囲んでわーわーと盛り上がっている。男ばっかり。なにが楽しいのか。

「あれ?総長は?」

誰かの声が耳に入って、窓から目を離して大部屋を向くとたくさんの書類を持った同志がキョロキョロとしていた。ああ、あの書類から逃げたわけだ、サボは。
同志に手を上げて「外だよ」と窓を指差すと、彼は「ええ〜」と困ったように呟いた。

「これ、急いでほしいんだけどなァ。ナマエ呼んできてくれよ」
「こういうのはコアラの方が適任だよ」
「コアラは今日オフなんだ」
「…了解です」

私は持っていたペンを置いて、椅子から立ち上がった。少し乱れたスカートを整えて、廊下を歩く。
正直あんな盛り上がってるところに行くのは気が引けるなぁ。コアラならあの場に行くだけでみんなが「あ、総長怒られるやつだ」と判断してお膳立てしてくれるだろうけど、私が行ったって「見て行けよ!」と道連れされるだけだ。目に浮かぶ。
さて、どうしたものか。
外に出ると、強い風に乗せられて小さな砂が舞ったから咄嗟に目を瞑った。反射的にスカートも押さえ、ゆっくり目を開ける。今日は随分風が強いんだな、気づかなかった。

「ナマエ」
「あれ、ハックさっきまでそこでやってなかった?」
「交代だ。サボは3戦目だな」
「わぁ」
「見に来たのか?」
「いや、仕事が溜まっている参謀総長を呼びにきたんだよ」
「そうか、では終わらせよう」
「ありがとう、助かるよ」

本当に助かった。ハックが堂々と歩いて行くと、ハックの大きな身体が止めてくれていた風が私を襲う。目に砂が入りそうだったから目の近くまで手を持って行くと、相手の拳をガードしてるサボとちょうど目が合った。
その瞬間、今日一番の強風が私のスカートをさらう。頭の血がさっと顔中に広がる感覚がした。

「きゃあ!」

自分でもこんな高くて大きい声が出るのか、と思うくらいだった。慌ててスカートを押さえるけど、絶対遅いし絶対サボにも見えただろう。ああなんて恥ずかしい、何で今日に限ってスカートなんて履いちゃったんだろう、バカすぎる、私そういうところある、そんな考えと後悔と羞恥が頭の中をぐるぐる回っていると、それを吹き飛ばすようにギャラリーたちの歓声が一際湧き上がる。

「ワァ〜〜〜!総長がやられたァ!!」

私のスカートの中を見たのはサボだけらしく、私がいることにも気づいてないみたいにみんなサボがやられたことにまさか!と驚嘆の声を上げていた。サボが演習とはいえ負けることなんてまずないのだ。思いもよらない大番狂わせに周りはさっきよりザワザワと騒がしく、倒れ込んでいるサボにハックが話しかけている。私の伝言を伝えているのだろう。
風はさっきの強さが嘘のようにそよそよと私のスカートを揺らしている。そよそよとしているが、私はもはやトラウマのようにスカートを押さえた。
ハックと頭をさするサボがこちらへ歩いてきた。

「ナマエ、連れて行け」
「あ、うん、ありがとうハック」

分かりやすくムスッとしたサボを受け取り、建物の中に入ってサボに「見た?」と聞くと「見えた」と返ってきた。ですよね。

「お前のせいで負けたんだ」

え、うーん、どうだろう。
でもスカート見られた私も恥ずかしいけどそれ見て負けたサボも恥ずかしいよね。なんて考えていたらお尻をパーンッと叩かれた。むちゃくちゃだ。


20180220
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