ぱちり。目が覚めるとサボの横顔がすぐそこにあった。口を開けて寝ている。サボは寝ているといつもより少し顔が幼く見えて、可愛らしい。昨日は疲れてたからぐっすり眠れているみたいで良かった、と心の中でホッとした。
起こさないように体を動かして時計を見ようとすれば、丁度目覚ましがジリジリジリとけたたましく鳴り始める。音にびっくりして慌てて止めると、サボが眉間に皺を寄せながらゆっくり目覚めた。

「おはよう。起きれる?」
「ん…」

まだ起ききっていない顔のまま、サボは体を起こして頭をかいた。ふわふわした髪の毛があっち行ったりこっち行ったりしてるから笑う。昨日、あのままちゃんと乾かさないで寝るからだよ。
私は服を着ながら、どこを見ているか分からないサボに話しかけた。このまま黙っていると寝てしまいそうなのだ、この男は。

「洗面所行って、朝ご飯行こうか」
「んー…」
「私木曜が休みなんだけどサボは休み取れてるの?」
「たしか、おれも木曜だよ」
「わ、珍しい、一緒だね」
「そうだな」
「サボの服、ここにあるの着てく?」
「コートと帽子だけ取りに帰らねェと」
「はい、服」
「ぶっ」

サボの顔にタンスから出した服をぶつけてやると、サボはじとっとした目で私を睨んで「お前な」と呟いた。その顔が面白くて笑う。予告もなしに当てたのは悪かったけど、そろそろベッドから出なさいな、サボくん。
サボは「ったく」と文句と言いたげな顔でベッドに座り、ズボンとブーツを履いた。どこもかしこも鍛えられた上半身が眩しい。これに憧れる子たちが、男も女もどれだけいるだろうか。でも、髪の毛ぼさぼさだけどね。
自分が使ったブラシでサボの髪の毛も梳かすと、絡まっているところがいくつかあった。サボがシャツを着ている間にそれと格闘である。サボはたまに「いてっ」と声を出すが、感謝はされど文句を言われる筋合いはない。

「せっかく綺麗な金髪なんだから」
「そろそろ切るかな」
「短くするの?」
「いや。最近よく絡まるから」
「確かに、短くするのはもったいないね」

最後の絡まりをブラシでやっつけて、全体的に軽く手櫛で通した。サボの丸い頭が暖かくて、あーサボはここにちゃんといるな、と安心した。
「うん、かっこいい」と呟けば少し顔をこちらに向けてサボは笑う。ここから見えるサボって、なんて可愛いんだろう。こんな近くでサボの後ろ姿見れるなんて、きっと私だけだ。気持ちに任せて耳にキスをしてベッドから降りると、サボも「なんだよ」と笑いながら立ち上がった。いつのまにか、綺麗にタイをつけている。

「行こっか」
「…今日午前中に会議だった気がするな」
「えー急がなきゃ、時間覚えてないの?」
「食堂で誰かに聞くよ」
「適当だなぁ」

そんな会話をしながら部屋とドアを開けると、子供たちと鉢合わせた。私やサボもそうだったけど、みなしごの彼らは共同部屋で、小さい子を世話したりするのでみんなで行動していることが多い。
彼らは同じ部屋から出てきた私たちを大きくて丸い目で出迎えた。好奇心がらんらんと光るその目に、私とサボは同時に同じことを思っただろう。しまった、と。

「サボだ!」
「ほんとだ、サボだ!」
「どうしてナマエのおへやから出てきたの?」
「おとまりしたの?いいなぁー!」
「わたしもこんどおとまりしていーい?」
「いっしょにねたの?」
「ベッドで?おとななのに?」
「おとななのに、ひとりでねるのがこわいの?」

高い声で矢継ぎ早にされる質問に私たちはたじろぐ。一緒に仕事をしている大人たちに見られるのはまだいい。少しはからかわれるだろうが、男女が集まればそういう恋愛沙汰なんてものは例外なくこの革命軍でもそれなりにあることだ。みんな大人だし、当たり前のことだと対応してくれるだろう。
でも、純粋無垢な子供たちは違う。一応、子供たちに見られることのないように配慮はしてきたつもりだが、ついに見られてしまった。というか覇気を使えるサボがこういうのは察知すべきではないのか、の意味を込めてサボを見上げると「やべぇ」という顔をしていた。

「なにしてたの?おべんきょう?それともトランプ?」
「えーいいなー」
「違う違う、お仕事だよ」
「おしごと?」

咄嗟に私がそう言うと、サボは「あーうん、そう、それだ」と相槌を打った。
こうなりゃヤケだ、と私は子供たちの目線に合わせてしゃがみ、みんなに「内緒なんだけどね」と静かな声で言う。すると子供たちは目を輝かせて、私とサボの両方を見た。

「ひみつのにんむなの?」
「そう、そうだよ、極秘任務」
「ごくひにんむ!」
「すげー!かっけー!」
「しー!ないしょなんだよ!」
「うん、そう、だからみんなには言わないでね。約束できる?」
「うん!」
「できる!」
「じゃあみんな、朝ごはんの時間だよ。行こうね」
「はーい!」
「サボ、ナマエ、ごくひにんむがんばってね!」
「しーっ!だよ!」
「危ないから走らないよ〜」

そう言いながらパタパタと消えていく子供たちを見送り、ため息をついた。サボも「焦った」と呟くから黙って頷く。無垢な好奇心って怖い。

「いつかは知るんだろうけど…」
「おれたちも昔はああだったんだろうな」
「サボはクソガキだったよ」
「うるせェ」

べし、と頭を叩かれた。ほんと、いつからこんなに大きくなって、いつから私たちはこんなに好き合うようになったのか、と笑えた。

ところで子供にとって「極秘任務」というのはものすっっっごく素敵な響きらしい。私はもう二度と子供たちに使わないと決めた。
何があったかと言うと、食堂に行くと同志から「よう、お二方。昨日は極秘任務お疲れさん」とニヤニヤしながら言われたので二人して顔を赤くしてしまったのである。無理。お泊まりだと言われるより余計に恥ずかしい。

「普通に仲良しだからだよって言えば良かった…」
「次からそれでいこう」

と、二人してその日一日頭を抱えたのは言うまでもない。


20180217
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