コンコン、とノックをするがシャンクスの反応はゼロだった。甲板にも船内にもいなかったしヤソップが部屋にいるはずって言ってたんだけどな、と耳をドアに引っ付けてみると微かにいびきの声が聞こえる。
なんだ、寝てるのか。少し笑って、起こさないようにゆっくりドアを開けるとシャンクスはソファに寝転がってやはり寝ていた。テーブルには酒瓶が一本空いているから、夕食後に飲んでいて眠くなってしまったのだろう。
でも海賊が寝るにはまだ早い、まだ日付さえ変わってないし食堂ではみんながシャンクスと同じように夕食後の酒盛りで盛り上がっている頃だ。船長も呼んでこい!ということで呼びに来たんだけども。
シャンクスは私が近づくといびきをやめた。起きたかな?と一瞬固まるが、目は瞑ったままだし胸は規則的に上下している。何だか起こすのが可哀想に思えた。
いびきをやめたシャンクスは顔を少し動かす。シャンクスの少し癖がある前髪が乱れて、右目を半分隠した。…かわいい。
四十にも近い男に可愛いなんて思ってしまうのも、恋という不可視なものの弊害だろうか。でもいいじゃないか、世間一般的に可愛くないものを愛しく思えるのはなんていうか世界平和への第一歩だ。海賊だけど。
キスだけして、起こさずに帰ろう。そう思ってシャンクスの前髪を整え、顔を近づけようとするとシャンクスの右手が目にも留まらぬ速さで私の腕を掴んで、目が合ってニッコリ笑った。

「夜這いにはまだ早い時間帯だな」

こいつ、起きてた!
慌てて「ちがっ」と呟いたが、違うくないかもしれない。キスしようとしていた。キスは夜這いに入りますか。
シャンクスは私が焦っているのが面白いのか、悪戯っ子のように笑って「どうした?」と問う。夜這いのいじりはもういいらしい、ホッとした。

「みんなが食堂で飲んでて、シャンクス呼んでこいって」
「おお、そうか。丁度いい、飲み足りなかったんだ」
「行ってあげなよ」
「で」
「え?」
「さっき、おれに何しようとしてたんだ?」

またニッコリ。なんて意地悪なおじさんだ。
さっきから腕を掴んだまま離してくれないし、きっと答えなんて分かりきってるくせに。いつだって私はシャンクスの手のひらで転がされているようだ。少し顔が熱いまま、シャンクスに不満げな顔をしてやった。

「…大体分かるでしょ」
「教えてくれよ。やっぱり夜這い?」
「ち、違う!……キスを」
「あァ」
「しようと、思い、まして」

それもやっぱり夜這いなのだろうか、と途中から何だか不安になって声が小さくなったが、反比例するようにシャンクスは「そうかそうか」と楽しそうな声を出した。何さ、大体分かってたくせに、白々しい。
シャンクスは不満げな顔をする私に「そんな顔するなよ」と、ぐんと私を引っ張った。
あっという間にシャンクスの胸の中におさまってしまい、びっくりしたままシャンクスを見上げたら、シャンクスは私のおでこにキスをする。無精髭が少しくすぐったくて、目を瞑った。

「夜這いにはまだ早い。また後で」

そんな予約制の夜這いがあるものか、と思いつつシャワーを念入りに浴びて、上下セットの下着を着て、髪を綺麗に乾かして梳かして、なんだか落ち着かずに読書をしても同じ行を何度も読んでしまうような私の部屋に、べろべろに酔ったシャンクスがやってきて呆れた私が何を言いたいのかと言いますと。
すごかった。


20180214
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