ベッドに寝転んでローは器用にノートに何かを書いていた。何かっていうのは医者としての何かなので私にはよく分からない。よく分からないし暇なのでローの胸にある大きなハートのタトゥーを「ハート」と呟きながらなぞってやった。
ローはいつもの悪い目つきでチラリと私を見ただけで何も言わず、またノートに何か走り書き。私も今度は肩にあるタトゥーをなぞって「ハート」。
ローはやっぱり何も言わないから肩のハートの中にひっそりと私のイニシャルを書いてみた。するとやっとローは声を出したのだった。

「……入れねェからな」
「あ、バレた?」

お前のイニシャルなんかいれない、とローが言うから笑った。なんだ、完璧に無視されてたわけじゃないのか。

「いいよ、私が死んだら入れてよ」
「……」
「わぁ、恐い顔」

とは言えそんな顔をされて怯む私ではない。これで怯んでたらローの恋人なんてやってられないだろう、いつだってローの顔は恐いんだから。これを言ったらまた恐い顔をされそうだから黙っておくけど。
ローは怯まない私に呆れたのか、また目線をノートに向けて呟いた。

「まぁ、どうせおれが先に死ぬ」
「ぜっっっったいイヤ!」
「うっ」

反射的にベッドから起き上がり、怒りのままにローのお腹をばちんと叩くとローは低い声で一瞬唸った。予想外の一撃だったらしく、さっきより怒った目で私を見た。それでも私は怯まない。そんなの恐くない。ローが先に死んでしまう世界の方が、私にとってはよっぽど。
私も怒った顔で見下ろすからか、ローはそのうち呆れたようにため息をついてまたノートに目をやった。

「お前が先に言ったんだろうが」
「私はローが死んでも絶対タトゥーなんかいれないから」
「ああ、そうしろ、おれだってまだメスも入れたことねェのに」
「…何それ対抗心?可愛いね」

そう言ったらローはまた嫌そうな顔をして私を睨む。にっこり笑えば、もう話したくねェと言うようにノートで顔を隠した。
私はまたローの隣に寝転んでハートのタトゥーを指でなぞる。

「ハート」
「……」
「ハート」
「……死んでも治らねェだろうな」
「ん?」
「バカは」
「うん、そうだよ。安心して」
「……」

また呆れた顔。そうです私は怯みません。
だからローが死んだら迷わずこの潜水艦と一緒に海に沈む覚悟があるし、死ぬまで離れるつもりはありません。あと死んでもバカは治らないから死んでも私はローが好きだし何なら生まれ変わっても多分バカだからローが好きです。

「死んでもローを愛してるよ」
「恐ェ女」

笑うけどね、ローくん、私ってばかなり恐いんだからね。地獄でも天国でも追いかけ回すからね、あ、でもローは多分地獄で私は天国だから、死ぬときはくっついて死なないとね、手と手を接合した方がいいかもしれない。ああ、怖い。死ぬのって怖いなぁ。


20180213
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