え、なに、あっつ。
目が覚めると目の前にはエースの厚い胸板があった。そこに押し付けられるように抱きしめられた私の額は汗ばみ、胸板がすぐそこにあるもんだから息苦しい。エースの顔は見えないが大口開けて眠っていることは高らかないびきで明白だった。
エースったら私のことがそんなに好きなのね、私も好きよ、でもそれとこれとは別で暑いし固いし息苦しいからさようなら、と力を入れてエースの腕から逃れようとしたが、さすがに筋肉が厚いだけあってほとんど動きはしなかった。もぞもぞ動く私に気づくこともなくエースはいびきをかいている。テメェ。
無意識の愛が嫌なわけではもちろんない。むしろ、こんなに熱烈に抱きしめられることなんて滅多にないもんだから嬉しい部類だがそれでも私は眠いのだ。眠いし暑いし固いし息苦しいのだ。抱きしめるなら、もっとロマンチックで溶けるようなシチュエーションにしてほしい。そんなこと言ったらきっとエースは「そういうのワガママって言うんだ」なんて舌を出しながら憎たらしい顔で言うに違いない。

「エース、エース」
「…んぁ」
「ちょっと、ごめん、苦しい」
「ん…」

私の声に一瞬起きたエースは腕の力を緩めて私を解放し、また大きないびきをかきはじめた。やっぱり大口を開けている。
私が眠るスペースにまで放り出されたエースの腕を少しずらして枕に頭を埋めると、エースは「んん…」と声をもらしながら今度は壁に向かって寝返りを打った。ちょっと広くなった。
エースにならって私も壁側を向くと、大きくて広いエースの背中に見惚れる。ほとんど毎日上半身裸だし見慣れたものだけど、やっぱりかっこいい。鍛え抜かれたその身体はいつだって私たちを守ってくれる、逞しくて頼りになって、そして美しい。
さっきのエースを嗜めることができなくなるが、そんな背中にぴったりと張り付いてみた。
おっきい。あったかい。好きだなぁ。眠れそう。
この体勢だとエースは再び寝返りを打てないが、まぁいいだろう。その時は私も起きて黙って元の位置に戻れば、

「……ナマエ?」

思ったよりも早い目覚めだった。エースは身体を少しこちらに傾けようとしたが、私がいるから出来ずに背中で「どうした」と声をかけた。まだまだ眠そうな、今にも眠るような声だった。
「邪魔?」と問うが、返ってきたのはまた高らかないびきで一人でクスクス笑ってしまった。
エースくん、君ってなんて可愛いの、と私も目を瞑るとあっという間に意識は夢の中へと引っ張られた。あ、オヤジがいる。


え、なに、あっつ。
目が覚めるとこれまた再びエースの胸板が目の前にあった。デジャヴ。いや、夢?どれが?これが?
まだ寝ぼけた頭で少し考えてからもぞもぞと体勢を変えようとすると頭の上から「お、起きたか」とエースのからっとした声がした。見上げるとばっちりエースと目が合った。えっ、起きてる。

「……おはよう」
「はよ」

私が寝ぼけているのがおかしいのか、エースは目を細めて笑って掬うように私の唇を奪った。微かなリップ音を落として、私の額に自分の額をくっつけるといたずらに笑っている。

「寝ぼけてんな?」
「夢でしょ、コレ」

こんなに甘い朝が一体今まであっただろうか。あったかもしれないけど、それも夢だったかもしれない。まだまだ夢と現実の差がよく分からなくて、さっきまで海でクジャクが泳いでいたような気がするけどそれも現実だったような、現実じゃなかったような。
エースは私の言葉にやっぱり可笑しそうな顔で笑って、もう一度キスをした。子供に言うみたいに蕩けるような声。

「そうだなァ、夢かもなァ」

夢なら何をしてもいいに違いない。勢いをつけてエースの背中をベッドに押し付け、驚くエースの顔にたくさんキスをしてやった。おでこ、そばかす、鼻、目、遊ぶみたいに、いくつもくれてやった。
エースは「おい、バカ、やめろっ!」とケラケラ笑っている。ワガママだけど、夢でも現実でも、どうか、覚めませんように。



20180211
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