銀ちゃんの手、好きだな。
 大きくて、あったかくて、ちょっと固くて、たまに汗ばんでて、力が強くて、誰かを護ったり、引っ張ったり、撫でたり、料理だってできるし細かい作業もお手の物。
 その手で、私と手を繋いでほしいと、何度も何度も心の中で泣きそうなくらい思っていることを彼は知らないだろう、それくらい、手なんかいつだって繋げるのに、秘めてしまうくらい。

「ちょっ!やだっ、やめっ、銀ちゃん!きゃあっ!」
「いって、今引っ掻いたろ」
「あ、ほんと?ははは、ごめん」
「仕返し」
「やー!ほんとやだ!弱いんだって、くすぐり!」

 どったんばったん。ソファーに座ってたはずがいつの間にか逃げたり追いかけたりで畳の部屋で私たちはじゃれ合っていた。というのも、銀ちゃんがくすぐりを異常に嫌がる私を面白がってさっきからその手で私の脇腹をくすぐってくるのだ。
 意地の悪そうな顔で笑いながら銀ちゃんは私の腰を掴んではくすぐり、嫌がったら離し、また掴み、の繰り返しである。掴まれたところは私が自分の腰を掴んだって味わえない感覚で、その後銀ちゃんの節くれ立った指が楽しそうにうねうね動くから私はもうくすぐったくて、何だか愛しいような困るような嬉しいような泣きたいような気持ちで笑いが止まらない。

「もう銀ちゃん!ほんとっ、もうやめてっ」
「あでっ」
「わぁ!ごめっ」

 抵抗した私の手が銀ちゃんの目のあたりに当たって銀ちゃんが顔を下に向けたから慌てて謝ると、銀ちゃんはすぐにやりと笑って「しまった」と思うより先に畳に雪崩れ込むように倒された。
 頭打つ、と思ったけど銀ちゃんが大きな手でカバーしてくれてたからそんなこともなく、自分の頭に添えられた銀ちゃんの手が暖かくてそこから脳みそが熱を持ったみたいに熱くなった。あぁ、ずるいなぁ。

「も〜…」
「わはは、俺の勝ち」
「勝ちも何も最初っから銀ちゃん一方的だったじゃん」

 私を見下ろしながら得意げに笑う銀ちゃんが面白くて笑いながら言っていると、最初は銀ちゃんも一緒に倒れるようになってたけど、今の体勢がまるで押し倒されているみたいな形になっていることに気付いた。
 銀ちゃんの大きな手が私の顔のすぐ横にある、太い腕はいつだって私を強く抱きしめるし、真上にある子供みたいに弧を描いた唇は私の唇を塞ぐものだ。
 だから、銀ちゃん、私があなたと手を繋ぎたい、って、こんな時にまで思ってるの、何でか分かるかな。
 ぐうっと心臓が何かを押し出すみたいに動いて、それにつられたように私の右手が動いた。銀ちゃんの目の前にばっと手を広げてみせると、銀ちゃんは「あ?」と不可解そうな顔をする。

「なんだよ」
「銀ちゃん、手、つなご」
「はぁ?」

 なんて言いながらも、眉間に皺を寄せながらも、銀ちゃんは左手を浮かせて私の右手と絡ませてくれた。そしてその手をぐいっと畳に押し付け、今度は私の左手も奪って畳に押し付けた。本当に押し倒されたみたいな格好。
 ぎゅ、と力を込めて握ったら銀ちゃんも小さく笑って力を入れた。ちょっと汗ばんでて、ちょっと熱い。ドキドキする。

「…ずっとこのままでいれたらなぁ」
「なーに後ろ向きなこと言ってんの」

 銀ちゃんは私の言葉を「ずっと一緒にいたい」と勘違いしたみたいだけど、私的には「ずっと手を繋いでいたい」だった。まぁある意味同義だけど、それでも、私が、銀ちゃんを好きで好きで好きで好きで好きでどうしようもなく銀ちゃんと手を繋ぎたい、なんて思っていることを、銀ちゃんは知らないだろう。

「離してなんかやんねーよ」

 知らない、はずなのになぁ。
 銀ちゃんの唇が落ちてきてキスをしたら「でもこの人、私を護るためなら離しちゃうんだろうな」と思って泣きそうになった。こんなに優しいキスをしてくれるのに、やだな、やっぱりずっとこのままがいいな、私だって銀ちゃんを離してなんかやらないもん。
 でもきっと、私をいつだって助けるのもこの手だ、誰よりも何よりもこの手だ、銀ちゃん、銀ちゃん、私、この手、絶対離したくない。

「ちょ、お前、何泣いてんだ」
「だって、銀ちゃんが」
「何でもかんでも俺のせいにすんじゃねーよ」

 銀ちゃんの手が私の涙を拭う。自由になった手で銀ちゃんの首筋に手をやったら、にやりと笑って今度は私の涙を拭った手が服の中に入ってきた。さっきくすぐってきたときとは違って、優しくて、涙が出るくらいだった。こうしてまた私を歓喜させ、また私は銀ちゃんの手を求めて泣きそうになるに違いない。お手の物。


その手、万能につき



20130709
title by しうさま
ありがとうございました!
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