あーあ、私って可愛くない女。

「最低!最悪!意味分かんない!三郎なんか大っ嫌い!」
「そんなに怒るなよ」

 可愛くない女で申し訳ないとも思うのだが、でもこいつも悪いと思うのだ。無駄に才能が有り余っているからか、私の嫌がることばかりしでかす上に悪気もなくへらへら笑うだけで今みたいに私の怒りは素通りされてまた膨らむばかりである。

「笑うな!」
「女子がそんな言葉遣いというのはいかがなものか」
「誰がそうさせてると」

 思ってるんだ、と言おうとしたら三郎が長い人差し指を自分の唇に当てて、私を黙らせた。唇は緩く弧を描いて、落ち着いた声色で諭すように言葉を漏らす。
 そんな声にますます押し黙ってしまうあたり、この狐みたいな奴に翻弄されまくっているのが分かる。分かるけど、その仕草も声も目も、私を捉えて離さないのだ。

「言霊というだけあって」
「…」
「言葉は物事に影響を与えやすいと私は思う」
「…?」
「誰に化けたって言葉でばれる、逆に言えば言葉さえ合っていれば姿は見えなくともその人の証として信用されることもある。忍の術として重宝されるだろう、言葉は人を現すんだ」
「…はぁ」
「まぁ簡単に言えば、そんな汚い言葉ばかり使っていると顔まで汚くなるぞという話なんだけど」
「!」

 またこいつは!と息を吸って大声を出そうとすると、三郎はやれやれと笑って私の頬に手を添えた。びっくりしてまた押し黙ると、笑ったまま言う。

「つまり、綺麗な言葉を使えばますますお前は綺麗になると思わないか?」
「え」

 三郎の言葉に、怒鳴ろうと思っていた言葉はどこかへ飛んでいった。一気に三郎の体温を感じる頬が熱くなって、目も口も開いたまま力が抜けなくて、そんな私の顔が可笑しかったのか三郎は可笑しそうに笑って、でも声は優しく、包むような。

「だから、なぁ、ナマエ、私に愛を囁いてくれ」

 本当に狐に化かされたみたいだった。
 三郎は、真っ赤になって固まった私に「ナマエ」とか「ほら」とか「言っておくれ」とか、とにかく甘えるみたいに言って、急かされれば急かされるほど私の喉からはあの言葉が出そうで、出なくて、それでも遂に私の真っ赤な唇は真っ赤な頬に動かされて言葉を発した。

「好き」
「君は可愛いな」

 私の言葉に満足そうに笑った三郎は私の額に唇を押し当てる。
 信じられないけど、本当にこんなこと自分で思ったことなんか一度もなかったのだけれど、彼が言うには、私はもしかしたら世界で一番可愛いのかもしれない!


20130705
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