「大我、スーツどう?」
「ぴったり」

 大我が着替えをする部屋を覗き込めば、私の方を向いて彼はスーツを見せながら笑った。あまり見慣れないから何だか可愛くて小さく笑うと、大我は慌てて「なっ…ど、どっか変か?」ときょろきょろし始めた。
 今日の愛しい彼は記者会見、遂にプロのバスケットボール選手になるのだ。

「ううん、かっこいいよ」
「なんだよその笑い…」
「何でもなーい」
「つーかネクタイ、これでいいのか?変じゃね?」
「確かに柄が…」
「いや俺は結び方を言ったんだけどな…」

 大我は困ったような顔でそう言ったけど、柄が気になった私はそれを無視して大我に近づいてネクタイを手に取った。スーツには合っているけれど、大我には合っていないような気がするなぁ。

「おーい」
「あ、そーだ!この間私が買ったやつはどう?」
「あー、あれな」
「どこにしまったかなー」

 タンスに手をかけると、後ろで大我がネクタイを解く音がした。その音に嬉しくなりながら先日私が買ったネクタイを取って、大我の首のあたりに添える。
 うん、うん、かっこいい!

「これにして、ダーリン!」
「へいへい、ダーリン」

 呆れた笑顔で大我はそう言って私のネクタイを取って首にかけた。小さな声で「あんまネクタイ結ぶの得意じゃねぇんだよな…」と言うから、それはもう、私の出番でしょう。

「結んであげる!」
「できんのか?」
「お嫁さんはできるんだよ、こういうの」
「なんだそれ」

 私の言葉に大我はまた笑って、ネクタイを結ぶ私をジッと見つめた。大我の背が高いから私の目線は高くなって、必然的に私と大我は見つめ合う形になってしまう。
 ネクタイを結ぶ途中でいったん止めて、ばっちり目線を合わせたら大我は「な、なんだよ」と少し照れた。

「大我が見てるんじゃん」
「じゃあどこ見てろっつーんだよ」
「私だけ見てて?」
「バカ」

 べち、と頭を叩かれて笑った。ネクタイのしっぽを輪っかに通して、きゅっ。

「はい、できた」
「お、サンキュー」
「やっぱりこっちの方がかっこいい」
「だな」
「私が選んだんだから当たり前だけどねっ」

 大我の背中にぎゅっと抱き着くと、大我は私の腕に手を添えて「おー」と応える。

「すげぇ心強ぇわ」

 あぁダーリン、あなたの胸にはいつだって私がいるのよね。いってらっしゃい。


20130701
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