朝ごはんを食べて歯を磨いて着替えて「今日の仕事なんだっけ」「ないよ」「…昨日もこの会話しなかったっけ」「一昨日もだよ」なんていつもの会話を交わして、私はソファーでチラシを見て銀ちゃんは自分の机の椅子に座って、ふと銀ちゃんが立ち上がったと思えば銀ちゃんは日めくりカレンダーの前に立って昨日の日付に手をかけた。
そして、ピタリと一時停止。
「…」
「…」
「…」
しばしの何となく気まずい無言のあと、銀ちゃんは黙ったまま昨日の日付をびりっと破り捨てた。そんな銀ちゃんを見つめていると、銀ちゃんは振り向く。けれど不自然に私と目を合わせようとはしない。
「…」
「…」
少し汗をかいて半笑いの銀ちゃんは不自然な目線のまま不自然な動作でまた椅子に戻り、机の引き出しをあけるとメモ用紙のようなものを取り出し、それに何かを書き始める。
私はそれをジッと見つめ、銀ちゃんにも分かるくらい不自然にジッと見つめ、銀ちゃんが何かを書き終わるのを待った。
銀ちゃんがペンを置く音がする。そして銀ちゃんはメモ用紙を掴むと、私に向かっていつもの低い声でちょっとずれた音で歌いだすのだった。
「はっぴばーすでーとぅーゆぅー」
「…」
「はっぴばーすでーとぅーゆぅー」
「…」
「はっぴばーすでーでぃあナマエ〜」
「…」
「はっぴばーすでーとぅーゆぅーーー」
「…」
歌い終わって渡されたメモ用紙を見ればそれには銀ちゃんの汚い字で「肩たたき券」とだけ書かれていた。
「え?何?銀ちゃんのお国ではハッピーバースデーを母の日って訳すの?今日って母の日なんだーへぇー知らなかったー自分の誕生日だと思ってたわ私ー」
「悪かったっつってんだろーが!!」
「言ってないよね一言も」
「いや、お前これはあれだからね、お前の肩じゃなくてどんな嫌な奴でもその肩を脱臼させるほど叩いてやる別名肩パン券で」
「でも自分じゃ自分の肩は叩けない、よね…?」
「何可愛く怖いこと言ってんの!?」
「いや当たり前だろ彼女の誕生日忘れるってどういうことだよ」
「……」
「目ぇそらすな」
「…」
「逃げるな」
「どうしろっつーんだよ!言っとくけどなんか買ってやるような金は今我が家にはねぇからな!お前も分かってんだろ!」
「分かってるよもちろん、期待なんかしちゃいないけどまさか忘れられてるとは思ってなかったからさぁー」
「こんな貧乏時に思い出してやったってことだけでもありがたく思えよ!」
「はいはいそーですね、銀ちゃんってそーいう人だもんね」
「チッ、可愛くねぇ」
「銀ちゃんに言われたくないでーす」
そう返せば銀ちゃんはまた舌打ちをして、また自分の椅子に戻ってどかっと座った。私は100%悪くないので謝りません。
手の中にあるメモ用紙を再び見つめる。やることは可愛いんだけどなぁ、肩たたき券って。
「どうせなら一生一緒にいれる券とかにしてくれればいいのに」
ぼそっとそう呟いたら、銀ちゃんの机の引き出しが開く音がした。見れば、銀ちゃんはまたメモ用紙に何かを書いていて、ペンを置くとまた私のところにやってくる。
「ん」
ずいっと差し出されたメモ用紙はさっきとは違って折りたたまれていて、開いている間に銀ちゃんはガラガラッと玄関を開けてどこかに行ってしまった。
その音を聞きながらメモ用紙を見ると、さっきより一際汚くて小さな文字で「無期限銀さんパスポート 今夜から有効」と書かれていた。
「パスポートって」
くそ、可愛いなぁ。ってかどさくさに今夜ヤるつもりだな上等だよ全くいつも以上に可愛がれよ。
数時間後、どこからか帰ってきた銀ちゃんはプリンを二つ買ってきた。「両方私の?」と聞けば「んなわけねーだろ、お前こっちな」と焼プリンを渡される。結局二人で一口食べては交換したり「あーん」とかちょっとイチャついてみたりしちゃって、ほんと、ナイスハッピーバースデー。
20130731
お題 by 匿名さま
ありがとうございましたアンド誕生日おめでとうございます!