「銀ちゃん銀ちゃん、今日はナマエの誕生日だから夕飯お寿司アルか!?」
「おう、あんま暴れて腹空かせんなよ」
「ひゃっほーい!胃の中空っぽにしてくるネ!」
「おい待てエエエエ!!お前の耳には誤訳機でも備わってんのかアアアアア!!」
「まぁまぁ、久しぶりなんだからしょうがないよ」
「俺だって久しぶりなんだよ!あいつにほとんど取られちまうじゃねぇか!」
「坂田家の食卓はいつだって戦場だよ銀時くん」

 そう言ってにこにこ笑うナマエは俺に両手を差し出した。その手に俺の両手を乗せると「ちーがーうーだーろー」とやっぱりニヤニヤ笑いながら俺の手をぶんぶん振る。バカだこいつバカだ。

「もーニヤニヤしないでよ!」
「お前だろ」
「銀ちゃんもだよ!そうじゃなくて!プレゼントは!」
「寿司以外に何を望むっつーんだよ、がめつい女だね」
「でも神楽ちゃんに『ナマエ、何か欲しいものあるアルか?銀ちゃんに遠まわしに聞いて来いって言われたネ』って言われたよ」
「遠まわしの意味分かってるのあの子!?耳どころじゃねぇよあいつの脳丸々誤訳機じゃねーか!!『酢コンブがいいって!』とか言うからあてにしてなかったけどよ!!」
「で、何にしたの?」

 ナマエは楽しそうに笑うと、俺を逃がさないようにしてるのかきゅっと握った手に力を入れた。細い指に力を込められてもどうってことはないが、その小さい力が女らしくて一瞬脳に熱が溜まった。バカらしいほど男である。

「まぁ一番欲しいのは銀さんだろうなってそれは分かってんだけどよー」
「そういうのいいから」
「んだとテメー昨日我慢した分今日覚悟しとけよ」
「照れ隠しにそっちに持っていかなくていいから」
「照れ隠しじゃねーし!そっちにもあっちにもこっちにも持っていってやるしィ!」
「何がしたいのそれ」
「分かんねーよもう!何なんだよどんだけプレゼント欲しいんだよオメーは!」
「だって銀ちゃんが私のために悩んで買ってくれたものでしょ?欲しいよ」
「…神楽は酢コンブとか言うしよぉ」
「うん」
「新八は銀さんが選んだものなら何でも喜んでくれますよぉとか童貞くせぇこと言うしよぉ」
「うん」
「ババアやキャサリンは人外で論外だしよぉ」
「うん」
「考えたら俺らの周りろくな奴いねーし金ねーし俺足くせーし甲斐性なしだし」
「うん」
「最後は否定してもいいんだよナマエちゃん」
「うん」
「…で、だな」
「うん」
「……ほんとは、指輪とか、考えて」
「うん」
「そーゆーアレがやっぱ女は一番嬉しいだろうし落ち着きてぇとも思うんだろうけどよ」
「うん」
「まだ、待ってもらっていいか」
「うん、大丈夫だよ、いくらお金があっても銀ちゃん優しいへたれだもん」
「…ウン、ソウダネ」
「うん」
「…だから」
「うん」
「首輪にした」
「…ん?」

 俺の突拍子もない言葉に、それまで優しく微笑みながら相槌を打っていたナマエは目を丸くさせた。その顔に笑ってその隙に右手をナマエから逃がして懐に手を入れる。細長い箱を渡せば、ナマエはびっくりした顔をのままそれを開いて呟いた。

「く、びわ」
「おう、首輪」
「じゃなくてネックレス、じゃないですか」
「似たようなもんだろ」
「言い方ってもんが」

 ナマエが悪態をつく前にそれを奪ってナマエの首に腕を回した。小さい留め具を何度か失敗したがカチッと留めて、一度揺らしてから改めてナマエを見る。

「ん、やっぱ俺センスいいわ」
「…洗面所行ってきていい?」
「おう、見てこい」

 そわそわするナマエにそう言うと、ナマエはパッと笑って洗面所へ駆けていった。子供か、とゆっくりその後ろを追うとナマエは洗面所の鏡に向かってニヤニヤと笑っていた。

「ニヤニヤしすぎナマエちゃん」
「だから、銀ちゃんもだよ」
「あり、ほんとだ」

 鏡の向こうで俺が笑ってるから鏡の向こうのナマエと目が合って笑った。
 「ありがとう、銀ちゃん」と今度は鏡の向こうのナマエが笑いかけてきた。
 ナマエの笑った顔とか目とか声とかこの雰囲気とか、とにかく全部が乱反射して、狭い洗面所であっちこっち跳ねまわって、それに押し出されるように俺の口から「おうよ、ありがとな」と出てきたもんだから自分で自分に驚いた。
 あぁでもそうだ、この言葉が一番ふさわしい。生まれてきてくれたありがとな、現在進行形で鳩が豆鉄砲喰らったあとラリアットされたみたいなアホ面さげて驚いてる、ナマエちゃん。


20130731
お題 by 匿名さま
ありがとうございましたアンド誕生日おめでとうございました!
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