「サンジくんに私なんかふさわしくないよ」と言えば、彼はとても悲しそうな顔をした。意志が強い目が急に淡く光って、今まで私を支えていた何かがふっと消えてしまうような感覚に自分がどれだけサンジくんに力を分けてもらっているのかが改めて分かって、また、いつものように、私は泣きそうになるのだった。
 それに気づいたサンジくんは誰よりも優しくて、私のために私の手をぎゅっと握って「ナマエちゃん」と名前を呼んでくれる。サンジくん、だから、そういうところが、

「俺のために泣かないで」

 泣いてしまった。
 何で、彼はそんな言葉を知っているのかと恨めしくなるくらい泣いてしまった。わんわん泣いたらサンジくんはやっぱりおろおろして、申し訳なさそうに私の涙を拭いたり瞼にキスをしたり抱きしめたり、とにかく優しさで私を窒息死させるみたいにするからこのままずっと泣いてやろうかと思った。
 何で私なんだろう、こんな私に何でサンジくんが恋をするのだろう、私じゃなければ、こんな私じゃなければ、きっとこの優しくてかっこいいサンジくんはもっともっと幸せだっただろうに。

「サンジくん、やっぱりダメだよ、私」
「ナマエちゃん」
「私、サンジくん大好きだけど、こんな私じゃ」
「おれはナマエちゃんじゃないとダメだ」
「でも」
「何度だって言うから」
「やだ」
「ごめん、君が泣いてもやめない」
「サンジくん」
「君が苦しんでも、やめれない」
「だって」
「だっておれがいないと君はもっと泣くだろ」

 そう言うとサンジくんは私の額にキスをした。優しく、子供をあやすように、軽やかに。

「おれだって泣くよ」

 私のためにサンジくんが泣いちゃったら嫌だし私はもっと泣くしそしたら本当にどうしたらいいか分からなくなっちゃうなぁ。

「サンジくんはどうやったら幸せになれる?」

 私、サンジくんのためなら何でもするね。そう言ったらサンジくんは泣きそうだった顔を少し崩して、可愛く笑った。
 泣くのは辛いし、泣いてサンジくんを苦しめることも辛いけど、この瞬間、彼の目が細くなって綺麗な唇が弧を描いて私だけを見てるこの瞬間、このままどこへでも飛んでいけそうなくらい嬉しくなって愛しくなって心臓を鷲掴みにされて痛くて気持ちいい、この瞬間が、いつだって私を恋に落としてしまう。

「ナマエといれたら、それだけで」

 責任重大でプレッシャーもかかるし私にそんな価値はないとも思う。
 それでもこの意志の強い目と、私をいつも支える手と、体と、心と、私を呼ぶ声と、そんなサンジくんの全てと、ずっと、生きていけますように。



20130731
お題 by 吉田さま
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