「俺ァちょっと外の空気吸ってから帰るよ、先に帰っててくれ」

 とっつァんに無理やり連れて行かれたパーティーの帰り、私と近藤さんととっつァんが車に乗り込むと、車に乗らないトシはそう言って煙草に火をつけた。パーティー会場が禁煙だったからもう我慢ができないのだろう。

「そうか?ここからだと結構遠いだろ」
「どうってことねーよ」
「知らない人について行ったりするんじゃないぞ!」
「するか!」
「はいはい!じゃあ私も歩いて帰るー!」
「あぁ?」
「ナマエも?なんだ、そんなに俺と一緒の車に乗るのが…」
「違う違う!泣かないで近藤さん!今日星が綺麗だし、歩きたいなって!」
「まぁいいじゃねぇか、恋人同士たまにはゆっくり散歩でもラブホでも行きゃあ。俺らはキャバクラでも行くか近藤」
「スマイルのお妙さんをお願いします!」
「決定だな。阿音ちゃんに電話するわ」
「じゃあなトシ、ナマエ!朝帰りしてもいいが隊士たちに見つかるんじゃないぞ!」
「だからするかァ!!」

 というわけで、車は颯爽と去っていった。キャバクラへ。
 トシは「ったく」とため息をつくとさっきつけたばかりの煙草の火を携帯灰皿へ押し入れる。そして制服のスカーフを乱暴に取って、ジャケットも脱いで自分の腕にかけた。

「…煙草、吸っていいのに」
「…」
「着物、クリーニングに出すから」
「…火」
「はい」

 やっぱり、着物を気にしてたらしい。新しいし、結構いいやつだとトシも気付いてくれたのかな。近藤さんは「お!その着物この間も似合ってたやつだな!?」って言ってたけど。
 手持ちの鞄からライターを取り出して、かがむトシが咥える煙草に火をつけた。ボゥッと光る煙草の火は、なんだかとても暑苦しいものに見えた。多分、真上にある星空がすごく涼やかで、美しく気高く光っているからだと思う。
 ライターをしまいながら星空を見上げたら、トシも煙を吐きながら同じように空を見上げた。

「綺麗だねぇ」
「あぁ」
「都会からでもこんなに綺麗なんだから、もうちょっと郊外に行ったらもっと綺麗だろうねぇ」
「あぁ」
「休みがとれたら、星が綺麗なとこに旅行に行こうよ」
「あぁ」
「…」

 私の言葉に、トシは同じトーンで同じ台詞でたまに煙草を混ぜて返すだけだった。割といつもこんな感じだけど、こんなロマンチックな夜ぐらいロマンチックな言葉を返してほしいものだ。

「?どうした」

 かと思えば、私の言葉を待っていたようにこんなことを聞いてくるし。なんだよ、結局私が思ってる以上に結構私が好きなんだよ、この人、多分。

「…ううん、明日もこうやって散歩したいなって」
「明日はお前遅番だろ」
「あっ」
「俺は非番」
「えーずるい!」
「ずるくねぇよ」
「じゃあ明後日」
「明後日は俺が遅番」
「じゃあ二人が遅番じゃないとき!」
「へーへー」
「言ったね!絶対だよ?」
「うるせぇな」
「ぶわっ!」

 トシは煙草をすうっと吸うと、口内にため込んだ煙を私に向かって吹きかけた。最悪!

「最低!」
「大げさ」

 はっ、と軽く笑い、トシは私を置いて歩いて行く。もう、意地悪!
 さっきより自分の歩幅が広くなっていることに、トシは気付いているだろうか。いつもの見回りならそれくらいの速さだけど、私はもっとゆっくり歩きたいし今日は疲れたしもっとトシといたいからいつもより遅いスピードなことに、トシは気付いているだろうか。
 更に少しスピードを緩めると、距離がまた少し離れてついにトシが振り返った。「おい」と声をかけてくる。

「遅ぇ」
「トシが速いの」
「なぁに怒ってんだ」

 呆れたような驚いたような声でトシが言うから「手繋いで」と手を差し伸べると「はぁ?」と今度は怒るような声で言われた。こんな往来で、彼が私と手を繋いでくれるとは思わないけど。

「繋ぎゃあいいのか」
「えっ」

 スカーフもジャケットもない、仕事終わりのような姿(パーティーも仕事のようなものだけど、とても新鮮でどきっとした)の彼は大きくて綺麗な手で私の伸ばしていた手をとった。そのままぐいっと私を引っ張って自分の隣にやると、トシは歩き始める。

「…トシ」
「あ?」
「私、幸せ、今、すごい、んだけど」
「そうかよ」
「トシは?今どんな感じ?」

 そう聞いたら、トシは私をちらっと見て、そして私の着物もじろじろと見始めた。え?何?

「…その着物が邪魔くせぇ」

 近藤さん、ごめん、朝帰りしちゃうかも私たち。





20130712
title by チエルさま
ありがとうございました!
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -