※テニス+ポケモンなので、苦手な方は注意です!


(昼休み)

「ナマエ、ちょっとおいで」
「なになに」

 昼休み、幸村に手招きされて椅子から立ち上がり駆けよれば、廊下に三人の仁王がいた。普通なら柳生か仁王なわけだが、三人ということは仁王くんちのゾロアークくんが混ざっているのだろう。
 わー分からん、と思っていたら幸村がにこにこと「どれが本物でしょう」とクエスチョン。いやだから分かるかっ。

「仁王と柳生さえ見分けつかないのに…」
「おうおう悲しいのう」
「三年間共に過ごしたというに」
「まーくん泣きそうじゃ」
「三倍うざいし」
「「「プリッ」」」
「三倍うるさいし」
「正解者にはもれなく、ブン太から没収したアイスをあげるよ。部室の冷蔵庫にあるから」
「幸村くんったらそんなにこにこ笑顔で」
「ブン太はちょっと最近カロリー摂りすぎだからね」
「しっかりしてらっしゃる」
「さぁ、ナマエ」

 呆れていたら幸村はやっぱりにこにこと私を急かす。そんなこと言ったって…と三人をまじまじ見るが、やっぱりいつもの飄々とした仁王で、しかも楽しそうにニヤニヤしている。なんかバカにされてるみたいで腹が立ってきた。

「ヒントとかないの?」
「そうだなぁ…でもナマエが一番お世話してるじゃないか、俺たちもポケモンたちも」
「そうは言っても……あ」
「分かった?」
「ゾロアークだけ分かった」

 そう言って、一番真ん中にいる仁王の手をとると彼は嬉しそうな顔をした。ほら、やっぱり。もう可愛いなぁと私も笑っていると、幸村が「ゾロアークはナマエが大好きだからなぁ」と私と同じように笑って言う。こいつほんとポケモンたちには甘いな。

「何で分かったんじゃ?」
「何となく、目が可愛い」
「…ゾロアークはイタズラ心が抑えきれんからのう」
「ってことで、こっちが仁王」

 喋った方の仁王を指さすと、彼はにやりと笑って「根拠は?」と少し柳生を思わせるような言い方で聞いてきた。だがそこがこいつの落とし穴、私は自信を持って根拠を言える。

「ゾロアークが見破られたとき、ちらっと仁王を見たもん」
「…」
「私が何度君たち二人に騙されたことか!」
「これは想定外じゃ、ターゲットは少し知能を身につけてるぜよ幸村」
「皮肉にも三年間遊び続けた結果がこんなことに…倒れてしまいそうだよ…あっ」
「幸村ー!」
「幸村くーん!」
「ユキムラー!」
「いいよゾロアーク、勝手に倒れればいいよ幸村なんか」



(部活前)

「あれ、どうしたの二人とも」

 部活がもう少しで始まるという時刻、タオルを補充しようと部室に行けば赤也とピカチュウが扇風機の前で項垂れていた。ピカチュウにいたってはまんじゅうのように床に這いつくばって、満点に可愛い。

「ナマエ先輩…暑いっス…」
「あーそうだねぇ、今日暑いね」
「ピカチュウが死にそうだったからここに…」
「自分のためでもあるでしょ。早く行かないと真田に怒られるよ」
「いやまじ今日無理でしょ!絶対死人出るっスよ、こんなの!」
「もう」

 涙目で訴える赤也が少し可愛く見えて笑えた。ピカチュウもそうだけど、この二人は何だか放っておけないなぁ。

「しょうがない」
「?なんスか?」
「アイスあげるから、食べたら行きなさいね」
「えっ!まじっスか!!」
「うん」

 赤也は私の言葉にパッと笑顔になり、ピカチュウも「ピカッ!」と起き上って私の足元にやってきた。あぁ可愛い、たまらん。
 冷蔵庫から、幸村に昼休みもらった(ブン太の)アイスを二つ取り出して、一つは赤也に投げてやった。赤也はそれを上手くキャッチすると、大きく笑う。

「サンキューナマエ先輩!ちょう好き!」
「知ってる」
「ぴ、ぴか…」

 もう一つのアイスを開けてピカチュウの口元に持っていくとピカチュウは「本当にいいの?」みたいな顔で赤也を見たり私を見たりしている。赤也が真田に怒られているのを一番間近で見てるからか、ちょっと真面目なのである。赤也はあんななのに、不思議なもんだ。

「いいよピカチュウ、食べて」

 そう言ったらピカチュウは笑い、小さな口でアイスを頬張ると冷たさと甘さに大満足!とでもいうように赤くて丸いほっぺたを両手で持ち上げる。このまま連れて帰りたい。
 しかし、そんな可愛くて涼しい幸せなひと時は長く続かなかった。そう、彼の登場である。

「赤也ァ!!」
「げっ、副部長!」
「こんなところで何をしている!そして何を食べているのだ貴様は!」
「あーあ…」

 赤也はほとんど食べ終えていたアイスを口に無理やり押し込めると「ち、違うんスよ!ピカチュウが」と下手な言い訳をし始めた。赤也と違って真面目なピカチュウはおろおろし始め、私や赤也の間を行ったり来たりしている。

「暑いからといってそこから逃げるようでは」

 うーんこの説教、しばらく続きそうだなぁ。巻き込まれる前に逃げたいな、さてどうしよう。なんて思っていたらピカチュウが私の手を小さな手でぎゅっと握った。「なに?」と声をかけると、アイスをくれ、みたいな仕草をするから半分くらい残ったアイスをピカチュウに手渡す。

「え、ちょ」

 するとピカチュウはそのアイスを持って、とてとてと真田に歩いていくのだった。「聞いているのか赤也!」と真田が怒号を飛ばすと、その後にピカチュウが「ピカチュー!」と真田を呼ぶ。ちなみに赤也を呼ぶときは「ピカピ」である。

「ん?なんだピカチュウ」
「ピッ!」

 真田にアイスを掲げるあたり、真田にも食えということだろう。そんな健気なピカチュウに真田は「いや俺は」と拒否しようとするからすかさず「真田!」と声を出すと、真田は気付いたのか、罰の悪そうな顔をして「う、うむ…」と応える。

「すまない、いただこう」

 真田がそう言ってアイスを受け取ると、ピカチュウは嬉しそうに笑って赤也の元に駆けていった。赤也はピカチュウを抱き上げて「良かったなー」と笑う。そしてこっそり、「さんきゅ、ナマエ先輩」うーん、やっぱり可愛いなこの二人。



(部活中)

「ナマエ」
「ん?」

 呼ばれて振り向けば、柳だった。タオル?と持っていたタオルを渡そうとすれば「いや、違う」と拒否られてしまった。そうか。

「どうしたの?」
「丸井とブースターが喧嘩をしてしまってな」
「はぁ?あの仲良しが?」
「この暑さで丸井がつい、な」
「もー…」

 何となくわかった。つまり、何様わがままブン太様なところが出てしまったのだろう。この暑いときにほのおタイプのブースターが暑苦しくなってしまうのは分かるが、ブースターはブン太が大好きな女の子だから少し心配だ。
 テニスコートに行けば、休憩中だというのに騒がしかった。主にブン太の大声で。

「あっち、あっちぃ!おい!やめろブースター!」
「ジャッカル、何事?」
「ナマエ、良かった、ブースター止めてくれっ」
「わぁ、怒ってる」
「このままだとブン太がっ」
「ほのおのうずくらいなら幸村のミロカロスがすぐ消してくれるよ」
「そういうことじゃねぇだろっ!」
「だってブースターに同情しちゃうもんなぁ、私」
「そりゃブン太の言うことも悪かったと思うけどよ…」
「おい!ナマエ!助けてくれ!あっち!ブースター!」

 名指しで助けを求められてしまった。するとブースターはまたぷりぷり怒って、最後に大きく炎を出すと、近くの木に上ってしまう。どうやら本格的にストライキに入るようだ。

「ブン太、大丈夫か!」
「女の子の繊細な心を傷つけるからだよ」
「暑いから来んなって言っただけだろぃ…」
「さいてー、ブースターあんなにブン太のこと好きなのに」
「うっ…」
「早く迎えに行かないと、嫌われちゃうよ?」
「ブースターが俺のこと嫌うわけ…」
「こんなに怒られたの初めてでしょ?」
「でもイーブイのときから一緒だったんだぜ!」
「だったらなおさらじゃんか。ブン太は彼女に悪いことして謝りもできないダメンズなの?」
「……」

 私の言葉にブン太は痛いところを突かれたとでも言うように項垂れた。そしてちらりと私を見ると、女の子みたいな大きな目で私に呟く。

「……こないだ、性格ブスとか言って悪かった」
「…私にじゃなくてさぁっ」

 確かにこの間そんなことで喧嘩したよ!「まずはブースターでしょ!」と叫んだけど、ブースターみたいに真っ赤になった私にブン太は笑って動かない。笑いながらいつもみたいに余裕綽々の声で「ブースター、ごめんな!」とブースターにいる木に向かって叫べば、ブースターが可愛らしく降りてきた。
 あーなんか、照れ損って感じで、もう、なんて日だ!


20130713
お題 by こめこちゃん
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