買い物から帰って玄関を開けてみれば、リビングの方からものすごい笑い声が聞こえた。銀ちゃんと新八くんの笑い声らしくテーブルを叩く音まで聞こえる。
 何があったんだろうとリビングに急ぐと、私を見るなり「ナマエ!」と真っ赤になって涙目の神楽ちゃんが抱き着いてきた。わわっ、本当に何事。

「何、どうしたの?」
「銀ちゃんたちが!」
「ははっ、うははははっ!神楽お前傑作!」
「だ、ダメですよ銀さんそんなに笑っちゃっ…あはははは!」
「黙れーー!!」

 逆に破顔と呼ぶにふさわしいかもしれない、二人とも顔を崩して全力で笑って、神楽ちゃんとはまた別の涙を流しているくらいだった。この状況からしてみるに、どうやら神楽ちゃんの言動が二人の笑いのツボにはまって、神楽ちゃんはそれで怒っているらしい。

「こ、この二人本当にだめネ!ナマエ、追い出すヨロシ!!」
「えぇ、私この状況よく分かってないんだけど…」
「聞けよナマエ、かっ、神楽がよう…!くっ…ははははは!!」
「てめええええええ!!」
「もー分かんないよー」

 分かんないけど、銀ちゃんと新八くんがこんなに笑っていることが何だか可笑しくなってきた。理由も言えないほど爆笑する二人に、真っ赤になりながら怒る神楽ちゃん。平和で和やかで、そして、なんか、笑える。

「ぷっ」
「な、何アルかナマエまで!」
「わははは!ナマエまで笑ってやがる!」
「もっ、もうやめてくださ…っ!お腹と口が…!!」
「だ、だって、何で笑ってんの二人とも…!ははは!」

 私が笑ったことにすら二人はなぜか笑って、それが可笑しくてまた私が笑ってしまった。
 なにこれ、なにこれ、全然分かんない、意味が分かんないけど面白い、笑いが止まらない、涙が出てきた!

「〜〜〜〜っ!うがあああああああ!!」
「ばっ、やめ、かぐっ、ぎゃあああああああああ!!!!」

 ついに神楽ちゃんはキレてしまい、銀ちゃんと新八くんがぼこぼこにされていく。ははは、と笑って見ていたら、定春が「わんっ」とエサ入れを差し出してきたから「あぁ、ごめんね、買ってきたから食べようね」と定春のご飯の準備をしてあげた。
 そのうちになんやかんやで制裁は終わったらしく、神楽ちゃんはぷんぷん怒りながら「今日は姉御のとこに泊まるネ!」と出て行こうとした。「あ、昨日の残りだけどお弁当持っていく?」と声をかければ「…うん」と可愛らしい声が返ってきたのでまた笑う。

「か、神楽ちゃん、僕も一緒に帰るよっ!」
「ちょっ、大丈夫?その怪我で…」
「大丈夫です、慣れてるんで!じゃあナマエさん、銀さん、また明日!」
「うん、お疲れ様」
「おー…」

 新八くんの言葉に、銀ちゃんはボロボロな体をゆっくり起こした。「大丈夫?」と笑って聞けば、銀ちゃんはへらりと笑う。どうやらまたさっきのことを思い出したらしい。

「随分面白いことがあったみたいだね」
「わはは」
「また笑う。何があったの?」
「いや、別に、今思うとあんま大したことねぇんだけどよぉ。ふはっ」
「ねぇ銀ちゃん」
「あ?」
「私、さっき笑ったときから、まだドキドキしてる」
「俺も。こんなに楽しくていいのかって思う」

 私、そういう意味で言ったんじゃないけどな。幸せだね、って。愛しいね、って言ったんだけどな。そんな情けない笑顔で、不器用な人。

「いいに決まってるよ、みんな許すよ、バカ」
「まじでか、やった」

 銀ちゃんは笑うけど、もう神楽ちゃんと新八くんといたときみたいな笑顔にはならなかった。私にしか見せない、こういう弱いところが酷く愛おしいようで酷く悲しかった。
 




 銀ちゃんがあんな顔して笑うの、私、好きだよ、大好きだよ、もう自分を許してあげてよ、銀ちゃん、銀ちゃん、私、銀ちゃんが優しいの知ってるよ、誰よりも知ってるよ、だから、私も頑張るから、ねぇ、銀ちゃん、そんな顔しないで。みんなで幸せになろうよ。


20130711
title by まこさま
ありがとうございました!
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