あんたちょっと調子に乗ってるんじゃない、と跡部のファンに囲まれた。こんなこと漫画でしかありえないと思っていたけどそもそも跡部が漫画の世界みたいな人だから道理に思えた。
 でも私、亮の彼女であって別に跡部とはなんともないんだけどなぁ、なんて思っていたら「宍戸の彼女だからってさ」と言われ、あぁそれも原因か、と納得した。
 あまり人の通らない教室の廊下で囲まれたもんだから、助けは来なかった。頭を叩かれて、威嚇するように軽く蹴られて、持っていたスコア表は叩き落とされて、ブスとか男好きとか嫌な言葉を吐かれて、やっと解放された。
 叩き落とされたスコア表を拾って階段を下り、テニスコートに向かう途中で亮にばったり会った。「あ」と声が出て、手をあげて挨拶をしようとするより先に、亮が聞く。

「どうした?」

 いつもならこういう風に会ったら「よう」とかしか言わないのに、こういうときに限って、そう言うのだ、こいつは。
 気づいたら泣いていた。ぐしゃぐしゃになったスコア表を一人で拾っている時より悲しくて、とても惨めで、悔しくて声が出そうなほど泣いた。
 亮は最初こそ「な…!」と驚いたが、泣き止まない私を見て「ナマエ」「おい、何だよ」とか言いながらまだ使ってないタオルで涙を拭ってくれる。

「なぁ」

 私が何も言わずに泣きながらただ頭を横に振ると、亮は「何があったんだよ」と私の右肩を掴んだ。
 真っ直ぐ私を見て、目をそらしてくれないから、つい起こったことをありのままに話せば亮は「あぁ!?」と大きな声を出す。

「何組のやつらだよ」
「…」
「…まだ教室にいるんだろ、そいつら」
「いい、亮、いいから」
「良くねぇよ!ふざけんな!」

 やっぱりこうなった、言わなきゃ良かった、とすぐさま後悔した。
 幼稚舎の時からそうだ、私やジロ―、岳人が上級生に何かをされたらすぐに亮はこうやってやり返しに行こうとするのだ。嬉しくもあるけど困る、亮が出てきたってこの問題は何も解決しない。血の気の多い亮には分からないかもしれないが、女子である私はよく分かっている。

「大丈夫だから」
「泣きながら言うことかよ、いいから離せ」
「亮、いいから」
「ナマエ」
「いいの、大丈夫、ちょっと情けなかっただけ、結構人多かったし、怖くて」
「…」

 これ以上泣かないように、震える声でそう言ったら亮は怒った顔で、またタオルで強引に私の涙を拭う。
 少し痛くて、乱暴な感じがなんだか笑えて「はは」と小さく笑ったら亮はやっぱり私を真っ直ぐ、全然笑えねぇとでも言っているような真剣な顔で見つめて、まるで誰かを脅すように、私を諭すように、静かに言うのだった。

「お前が泣くなら俺は許さねぇから」


ぼくはきみの涙を
喰らう怪物になる




20130709
title by まこさま
ありがとうございました!
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