Swindler | ナノ


▼ 音もなくさよなら2

 一部始終見ていたのかもしれない、森の暗がりから現れたリドルはにこやかなゾッとするような笑みを浮かべた。

「あれ、僕の帰りがそんなに待ち遠しかったのかい? マリー」

 全てを理解しているだろうに、憎たらしいくらい飄々とした様子でリドルは私を見て声をかけた。震えて体が言うことを聞かず、一歩また一歩と近寄ってくるリドルに対して私は震えながら見つめることしか出来なかった。

「おかえりは?」

「やめて、私をマリーなんて馴れ馴れしく呼ばないで」

 勇気を振り絞ってリドルの手を振り払う。得策ではないとわかっていても、ノアだけが呼ぶことを許されるその愛称でぬけぬけと呼んでくるリドルが許せなかった。

「やっぱり君は優秀な魔女だ、オブリビエイトだけじゃ力足らずだね」

 不気味なくらいにこやかに微笑むリドルは「さて、どうしようか」なんて軽やかに呟いている。

「君に服従の呪文をかけてもいいし、また記憶を消して、いつまでもつか試してみてもいい」

「なんで…なんで、私なのよ!」

 リドルの狂気的な笑みが恐ろしく、叫ぶ。リドルはにこやかな笑みを消し、急に真顔になって私を見た。

「僕が君を愛してる余りに……だなんて馬鹿げた妄想はしてないだろうな? 君を選んだ理由は、血に価値があったからだ。それだけだ」

 純血はいくらでもいるが創設者の子孫は君くらいだろうなんて続けるリドルに絶句する。まるで呪文をかけられたように動けない私に一歩また一歩と近づいて来たリドルの目は赤かった。今はそれがとても恐ろしい。

「サラザール・スリザリンの血を受け継ぐ僕に相応しい。ただの優秀な子孫じゃない、創設者2人の血を受け継ぐ子供だ。より価値がある」

 そう言いながら下腹部をそっと撫でられる。その考えが恐ろしくて、悍ましくて、手をはたき落としたいのに何も行動を起こすことができなかった。ただ震えてされるがままだ。ノアの顔を思い出して、勇気を振り絞る。このまま震えていても何も状況は変わらない。

「私……妊娠なんてしてないわ」

「それは僕も知ってるよ」

「嫌よ、絶対に嫌! あなたとの子供なんて、悍ましい!」

 私の言葉にリドルはそうだねと殊勝に頷いた。「勿論、このままでは君は嫌がるだろうね」なんて頷くリドルに、ぶんぶんと首を縦に振って頷く。嫌に決まっている。

「貴方の言いなりになんて絶対にならない。死んだ方がマシ」

 親を、婚約者を殺した男との子供なんて考えただけでも悍ましい存在だった。受け入れられる筈がない。そもそも、リドルとこうして会話をするのでさえ嫌だった。

 赤い瞳が、今や怒りでギラギラと光っているような錯覚さえ覚えた。そうだ、この調子で怒らせれば彼らを虫ケラのように殺したように私のことも殺すだろう。

「君をどう扱うか迷っていたけど、心が固まったよ」

 そう言って杖を私の心臓に押し当てるリドルに悲鳴をあげそうになるのを我慢する。きっと彼は気が変わって、私を殺してくれる筈だ。

 せめて、死ぬ時くらいは、気丈に振る舞ってみせる。強がりもあって顎をツンと上に向けた私に、リドルは「何か勘違いしているよ」とくすくす笑った。

「君を殺しはしない。殺すとしたら、子供を産んでからだ。
 せめて、君の気持ちが楽になるように記憶を塗り替えてあげるだけだよ……そうだな、矛盾が生じないように慎重に行おう」

 恐ろしい案だった。私の記憶をどう塗り替えると言うのだろう。恐ろしい結末にたどり着いて震える私に、無慈悲にもリドルは口を開いた。

「レジリメンス」

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