Swindler | ナノ


▼ 指輪が唄う過去3

 次の場面は、大きな部屋の中だった。繊細な刺繍が施されたカナリアイエローのカーテンとか、ふかふかのソファ、大きな本棚には順番もめちゃくちゃに沢山の本が詰め込まれている。

 パッチワークのブランケットで体全体を包み、髪全体はお団子、丸メガネをしているマルグリットの姿は城の中にいた時とはかけ離れている。あの時は自慢の豊かな赤毛を靡かせ、薄い化粧と対照的な真っ赤なリップが印象的だった。きっと、あれはよそ行きの姿だったのだろう。

 パチンという音と共にマンソンジュとよく似た屋敷しもべ妖精が部屋に現れた。マンソンジュとは着てる服も、瞳の色も違う。それに、顔ももっと皺くちゃだった。

「お嬢様、ご主人様が客人がいらっしゃるからお呼びです」

「ホキー! 部屋に直接入ってこないでって言ってるでしょ」

「ごめんなさい、ホキーは悪い子! ホキーは悪い子!」

 近くにあった壁に頭を打ち付け始めたホキーを見て目をぐるりと回したマルグリットはホキーを放って鏡台の前で髪をほどき、櫛で梳かしている。冷めた目が、自分と全く同じ容姿の人間がしていると思うと少し気分が悪い。

 ホキーが壁に頭を打ち付ける音なんて、彼女には聞こえないのだろうか。鼻歌まで歌いながら、マルグリットはブラウンのアイシャドウやマスカラを塗っている。

 最後、部屋から出るときにポケットからリップを取り出して唇に塗りながらホキーに思い出したとばかりに「お仕置きやめて良いわよ」といえば、ホキーは頭をゆらゆらと前後左右に揺らしながら地面に座り込んだ。一瞥することもなく扉から出て行く後ろ姿を私だとは思いたくなかった。

 マルグリットの後をついて廊下を歩いて突き当たりの階段を降りる。降りた先には、見たことのあるでっぷりとしたおばさんがいた。此方に背を向ける形で、おばさんの目の前に座っているのは黒髪の青年だ。

 マルグリットが上っ面だけの笑みを浮かべて女性のところへ歩いて行くが、笑顔が固まるのも時間の問題だった。カップに口をつけた女性が突然もがき苦しんだのだ。

「お母様!」

 驚いて駆け寄るマルグリットに、いまだ後ろ姿しか見えない男性は悠々と椅子に深く腰掛けたままだ。短い時間もまるで数時間のようにゆったりと過ぎ、なすすべもなく女性は息絶えた。

「久しぶりだね」

「リドル……?」

 マルグリットが憎しみを込めた声でそう呼ぶのが聞こえた。トムは会えて嬉しいよなんて笑いながら杖を構えて、マルグリットに――「私」に向けた。頭が痛む。景色が歪んでいく。最後に視界の片隅で見えたのは閃光が当たって為す術もなく眠りについた「私」だ。


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