Swindler | ナノ


▼ 指輪が唄う過去2

 私は気がつけば古めかしい城の中に立っていた。廃墟とかそういった寂れた雰囲気はなく、松明は火が轟々と灯っていて、そこかしこの壁に取り付けられている。石造りの壁にはたくさんの絵画が掛けられていて、驚くべきことに絵画の中の住民は動いているようだった。

 絵画をよく見ようと壁際によれば、カツカツと規則正しいリズムで石畳をローファーが叩く音が聞こえてくる。足音に耳をすませ、近づいてきていることに気づいて慌てて隠れようとしたが、黒いローブに身を包んだ女子学生は私に気づいた様子もなく真っ直ぐ前を見据えている。

 更に驚くべきことに、その女子学生は私とそっくりだった。鏡で見た今の私より幾分か若い、まだ学生のようだ。一体何がどうなっているのだろうか。疑問が渦巻いで足が竦んだが、このままいても仕方ないと彼女の後をついていく。

「やあ、マルグリット」

「ノア、待っててくれたの?」

 彼女(この子がマルグリットらしい)のいく先に、壁に凭れかかる形で一人の男子生徒が待っていた。金髪に青い瞳、さきほどのハンサムな青年だ。ノアというらしい。ノアはマルグリットの腰に手を回し引き寄せると唇に軽くキスをする。マルグリットは当たり前のようにそれを受け入れていた。

「酷いのよ、スラグホーンったら罰則は終わったのにずっと自慢話で解放してくれないの」

「マリーが大鍋を爆発させたんだろう? 自業自得だよ、それで忘れ薬が教室中に飛び散ったんだから」

「私、忘れ薬なんて作ってた?」

「おっと、忘れ薬の効果が早速ここにも出てたみたいだ」

 くすくすと楽しそうに笑いながら前を歩く二人はとても微笑ましい。見るからにラブラブといった様子だった。ただ、マルグリットが私とそっくりなこと、マリーと呼ばれていることなんかのせいで妙な胸騒ぎがする。これは、私が失った過去なのだろうか。なら、トムはどこにいるんだ。これは、トムと付き合う前の話?

「リドルにスラグホーンのパーティー誘われたんだって? リドルのファンの女の子たちは皆その噂ばっか話してる」

「勿論断ったわよ。あなたと行くもの」

「リドルより俺を選んでくれるの?」

「付き合ってるんだから当然でしょ。私、優等生さまよりあなたみたいにキュートな男子の方が好きよ。」

「俺がバカって言いたいわけだ」

 目をぐるりと回したノアの腕に両腕を絡ませながらマルグリットは幸せそうにクスクス笑っている。確かに、ノアは筋肉質で日焼けした肌でとてもトムとは似てもつかない。廊下の反対側から歩いて着た緑のネクタイを着けた男子学生の集団の中に、トムやアブラクサスがいた。トムもマルグリットもお互い見向きもせずすれ違っていく。

 振り返らなかったマルグリットはきっと気づいていない。トムが振り返った時、まるで怒りに染められたように瞳を赤くしてジッとマルグリットを見つめていた事を。景色がぐにゃりと歪んで、次の場面に飛ぶんだと本能的に理解した。

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テーマ「人外ファンタジー」
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