▼ 紅に魅了される1
「ホグワーツって? それにさっきからトムがその棒を振るたびに魔法みたいに……」
部屋に着き、カウチに座るように誘導される。座った瞬間、口からするすると疑問が堰を切ったように飛び出した。私の質問にトムは嫌な顔一つせず、順番に答えていく。魔法使いとマグルのこと、ホグワーツで魔法を学べること――。
「私とトムは、そのホグワーツで出会ったの?」
「ああ。君はハッフルパフの生徒で、僕はスリザリンだった……さっき言った寮のことだよ」
私が疑問符を浮かべるたびにトムは補足しながら、続けた。
「僕たちは寮も違うし最初は接点はなかったんだ。僕は……自分で言うのも難だけれど、結構モテてね。マリーも男子学生の人気は随一だった。だから、何かと周りがお似合いだなんだってお節介をやいてくれたんだよ」
「私がモテてた?」
訝しげに眉を寄せると、トムは本当だよと言って杖を振った。現れたのは大きな姿見で、そこに映った姿に目を見開いた。トムの隣に座るのは、隣に並んでも見劣りしない美女だったのだから。
立ち上がって近づけば、同じように鏡の中の女性もふらふらと此方に歩み寄ってくる。全体的に筋肉質で引き締まっている体に緩やかに波打つ赤い髪、新緑のアーモンド型の瞳に、通った鼻梁、ふっくらとした唇。今はメイクをしていなかったが、すれば華やかなパーティー会場が似合う雰囲気に様変わりするに違いない。
「なんて……綺麗なの」
私のこぼれ出た本音に、後ろにいたトムが噴き出す声が聞こえた。我に返って後ろを振り返れば、お腹を抱えて笑うトムの姿がある。幾ら他人のように感じられていたからといって、なんてナルシストめいた発言だろうか。羞恥で顔に血がのぼる。
「はははっ……笑ってごめん……ふはっ。駄目だ、笑えるんだから仕方ないだろ」
初めて見るケラケラと笑う姿に呆気にとられる。最終的には涙を目尻に浮かべた笑うのだから、怒りも失せる。彼に感じた恐怖や疑心を和らげるほど、幼い笑みで――
「いや、君は本当に美しいよ」
眩しそうに目を細めて私を見る彼に、不自然さも手首に残るアザも何もかも横に置いて、彼に愛されている幸せな恋人だったのだと錯覚してしまいそうだった。
prev / next