Swindler | ナノ


▼ 私を知るひと、知らない私4

 廊下を出て、左右を見渡したがトムの姿は見えないことに一先ず安堵した。先ほどは一瞬で気づかなかったが部屋と同じく洗練された内装だった。長く続く廊下は片側は全て窓になっていて、中庭(パティオ)を挟んで向かい側も窓が見える。建物が中庭を四角く囲むようにできており、所謂コートハウスと呼ばれる形式のようだ。

 窓の向こうに誰ががいた気がして咄嗟にしゃがみ、恐る恐る窓をのぞいたが向こうには人影らしきものは見当たらない。ドキドキと音を立てる心臓を鎮め、此処にいても仕方ないと向かい側につながる渡り廊下へと進んだ。

 ピカピカに磨かれた大理石の廊下は、一歩踏み出すたびにローファーの踵とぶつかってカツカツと高い音を鳴らす。廊下の所々には彫刻も置かれていて、精巧に作られらそれはどことなく不気味で、まるで見張られているようで気分が悪い。

 足早に廊下を渡りながら左右の窓からパティオを覗く。まるでどこかの城の跡地のように広大なそれは、中央に噴水が鎮座し、花壇には色とりどりの花が咲き誇りこの家の財力を指し示しているようだった。トムがこの大邸宅の所有者だとしたら、彼は資産家か何かなのかもしれない。

 廊下を渡りきり、反対側の建物に到着したがこちらも人の気配はなかった。此処は2階のようだから、階段を使って下へと降りる。階段を降りきったところで色白のブロンドの男性と出くわし、お互いに見つめあって固まった。

 男は、灰色の瞳をこれでもかと見開いている。中々に間抜け面ではあったが、恐らく私も同じような表情を晒しているのだろう。この男も先ほどのトムと同じような黒いローブを着ていて、トムの仲間であることは一目瞭然だった。

「何故此処にいるんだ」

 驚いたように口を開けた男は、私を頭の上から爪先まで不躾にジロジロと見つめると「服の趣味も変わったようだが、前よりは幾分かマシになったじゃないか」と意地悪な笑みを浮かべた。

「貴方も……私を知ってるの?」

「は? 随分しおらしい振りをしてるが、新手の冗談か? つまらないぞ。それにしても、何故此処にいるんだマ――」

「マリー」

 早口に言い募っていた男の言葉を遮ったのは凛としたトムの声だった。男は分かりやすく固まり、私とトムを交互に見た後取り繕ったような笑みを浮かべた。


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