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▼ 【日刊預言者新聞 号外】ヘプジバスミスと黒い噂

 チャリング・クロスを北に500メートルほど歩いていけば、ロンドン中心部シティ・オブ・ウェストミンスターの中に存在する地区――コヴェント・ガーデンへ辿り着く。マグルが多く行き交うこの地区に住むことは一種のステータスとも言え、此処に家を構えることに憧れを抱いた方も少なくないだろう。その上流階級の魔法族だけが住めるとも言われていたコヴェント・ガーデンで悲惨な事件が起きた。

 コヴェント・ガーデンにあるニールズ・ヤードを歩いていると、魔法族なら誰もが目を見開くような(マグルも見たら腰を抜かすだろうが、彼らは決して見ようとしない)大邸宅がある。かの有名な、ヘプジバ・スミスの所有する家の一つだ。その家を舞台に事件は起きた。

 1947年12月7日、ホグワーツ創設者の1人ヘルガ・ハップルパフ直系の子孫であり、国内有数の資産家として知られているヘプジバ・スミスが遺体となって発見された。発見者はヘプジバに雇われていた屋敷しもべ妖精であり、泣きながら、魔法省の危険生物処理委員会へ自らの罪の告白と共に出頭した。

 その屋敷しもべ妖精(ホキーという)は働くには余りにも年老いており、近々新たなしもべ妖精を雇う話も上がっていたという。だが、雇う前に事件は起きた。ホキーは老化のため、普段ヘプジバが服用していた薬と誤って毒物をココアに入れて出してしまった。

 魔法省によると、ヘプジバの近くにはココアの入ったマグカップが落ちており、その中から毒物が検出されている。一見すると、これは資産家が年老いた屋敷しもべ妖精を働かせたために起きてしまった悲運な事故だろう。しかし、果たしてそうだろうか?

 魔法族の家に毒物があるのは珍しくはない話だ。しかしながら、常用薬と間違えて混入してしまうようなキッチンの棚に、例えばアクロマンチュラの毒が入った小瓶を置いておくような魔法族はいない筈である。少なくとも、私は日刊預言者新聞を購読する読者の中にそのような稀有な魔法使いはいないと信じたい。

 もう1つ気になる点がある。ヘプジバの娘であるマルグリット・スミスがその日を境に姿を消している。近所の住民は、ヘプジバとマルグリットはとても仲の良い親子だったとインタビューで答えた。しかし、興味深い意見も耳にした。ヘプジバ・スミスは度々夜の闇横丁に出入りしており、それをマルグリット・スミスは快く思っていなかったようだ。

 ホキーはマルグリットの行方について尋ねられると、声を震わせて「知らないので御座います。ホキーは何も見てないので御座います」と繰り返し供述しているようだ。我々にはマルグリットに脅され、自らの罪として新たな主人を庇っている健気な忠誠心を持つ屋敷しもべ妖精にしか見えない。

 もし、妖精の供述が正しいならば、マルグリット行方不明事件とヘプジバ殺害事件は関係ないのかもしれない。しもべ妖精が起こしてしまった事故でこの事件は片付いたという事になる。

 しかし、本日未明、魔法省は彼女を重要参考人として指名手配することを発表した。これが意味することは、たった一つ。殺害事件はまだ解決していないということだ。


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