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▼ 誕生日プレゼント2

 トムは孤児院で浮いていた。どこか冷めた目をしていて、それでも瞳の奥は寂しさを常に携えているのだから私は彼を放っておくことなんて出来なかった。なにより、自分自身がさみしくて死にそうだったのだから。

 事務的な施設の職員ミセス・コール、年下の子を虐める男の子――初日に会ったビリー・スタッブズなど最たる者だ――、輪に入れてくれない女の子達……私は自然と1日の大半をトムと過ごすようになっていた。

 トムと一緒にいて、特別楽しいことがあるかと聞かれたら別に何もないけれど、どことなく安心感があって私は彼の隣を好んでいた。今思えば、トムと仲が良かったせいもあって女の子達の輪に入れなかったのかもしれない。

「アビーは何で最初ビリーを倒せたんだろう」

 至極不思議そうに首を傾げトムは私の腕を掴んだが、当然細い。どこからビリーを弾き飛ばすほどの力が出たのか私も知りたかった。そうすれば食事に困ることも虐めのターゲットにならないか怯えることも無かっただろう。

 私は――勿論トムも――痩せっぽっちだ。ここへ来た当初はそこまででも無かった筈が、孤児院ではまさに弱肉強食の世界。この小さな社会の弱者である私たちはいつも強者である年上の子達にご飯を取られ、あまり満足に食べれていない。子供に興味がないミセス・コールは当然私たちの様子に気づく筈もなかった。

「私が知りたいわよ、そうしたらビリーなんてやっつけてやるのに」

「今度は僕がやっつける番さ」

 口を尖らせた表情の私は、トムと顔を見合わせて笑う。こんな会話を聞かれた時には私たちは一貫の終わりだったが、この密かな目標はまるで大層な志を抱いてるようでワクワクさえしてしまう。

「そういえば、今日はミセス・コールがクッキーを焼く筈だ。手始めに僕らが沢山食べてやろう」

「賛成!」

 瞳を輝かせて私はトムが差し出す手を取った。トムと一緒に台所へ行けばちょうどミセス・コールがオーブンからクッキーを取り出した時だった。ビリーは馬鹿なので今日がクッキーの日なんてことは忘れているだろうが、彼が持ち前の嗅覚で此処へ辿り着くのも時間の問題だ。

 皿に盛って、取りすぎないようにというミセス・コールにお部屋の子と食べると言って私とトムは各々多めにクッキーを取った。彼女は私たちの発言の真偽を気にした風もなく、どうぞと言ってクッキーをくれる。

 はじめてのちょっとした悪事に私とトムは目を輝かせて、クッキーという名の戦利品を私の部屋へと持って行った。本来四人部屋であるのだが、元々この部屋にいた2人のうち1人は里親に引き取られ、もう1人は仲がいいらしい女の子の部屋に入り浸っていて寝る時以外は留守にしている。

「はは、あははは」

 小さな勝利に私とトムは部屋で笑い転げた。一頻り笑ったところで、ミルクを入れたグラスを掲げ乾杯する。トムは何を考えたのか悪戯のように目を輝かせて乾杯しながら言う。

「僕たちの勝利に」

「悪友同盟に」

 私の悪友同盟にいいねそれと悪戯に笑ったトムともう一度だけグラスを合わせ、まるで映画のワンシーンを真似るかのように杯を空けた。といっても、中身はミルクだったけど……それも、砂糖を入れた甘いやつ。


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