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▼ 新しい楽園2

 紅の蒸気機関車が止まっている。もくもくと白い煙をあげて、私たちを新しい世界へ連れて行く乗り物はそこにあった。トムと目を合わせ、頷く。自然とつないだ手の力をより込めて私たちは混雑したホームを抜け出し列車へ近づいた。

 コンパートメントは所々埋まっていたけれど、後ろの方へ進めば徐々に空いてきて無人のコンパートメントを1つ陣取ることができた。まだ足りない身長ではトランクを持ち上げることはどうしても難しくて、トムのどうせ人は増えないんだから床に置いとこうという発案に従った。

 列車が徐々に動き出す。窓から顔を出して見ると、左右の窓も開いていてそれぞれホームに残っている家族へ手を振っていた。その様子を見ているだけなのがどことなく虚しくて、窓を閉める。学校の授業参観で感じるような、家族がいないことに対する劣等感や寂寥感があった。

 トムは全く気にしていないようで、床に置いてあるトランクから教科書を取り出して、それを恐ろしいほど熟読していた。何が面白いのかさっぱり分からず、トムに話しかけてもおざなりに返されるので渋々自分も鞄を漁る。

 道中、キングスクロス駅のゴミ箱に捨てられていたまだまだ新しいファッション雑誌を拾ったことを思い出した。ラミアが雑誌が入ったせいでカバンの中で窮屈そうにしていたのが申し訳なく、慌ててラミアを出してトムの膝の上に置いてあげる。トムはされるがままで、片手に本を持ったままラミアの頭を撫でていた。

 雑誌自体は自分には対象年齢が些か高いものだっただろうが、ファッション雑誌なんて読んだことがなかったものだから少しだけドキドキしながらページを捲る。

 洋服なんてどうせ買えないのだから見ても欲しくなってしまう。けれど、ヘアアレンジの特集は気に入った。必要なのはヘアピンやらヘアゴムやらだけだったから、私の手持ちのものでも出来そうだった。

 雑誌を膝の上に置いて、上から覗き込みながら頭に手をやる。特集の見開きで紹介されていたフィッシュボーンが大人っぽいのに可愛くて、明るい茶色の髪に指を差し込む。鏡を見ていないのもあるだろうが、元々不器用なせいもあるのだろう。全く上手くいかない。

 どれくらい経ったのか分からない。何度目かの編み込みを解いていた時、コンパートメントにカートを押したおばあさんが顔を出した。トムと一緒に見てみれば、大鍋ケーキや蛙チョコレート、見たこともない不思議なおもちゃがたくさんあった。

 余りにも物欲しそうにしていたからかもしれない。トムが(私とトムの2人分の奨学金合わせて管理している)大鍋ケーキを1つだけ買ってくれた。蛙チョコレートも欲しいと強請ったがきっぱりと断られる。コンパートメントの扉を閉めたところで、トムが不満げな私の頬をつまんで言った。

「僕らが孤児院を出る時のために、貯めとかないと。
 ほら、機嫌直して。僕がその編み込みやってみてあげるから」

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