▼ 新しい楽園1
一度来たロンドンの街並み、前回漏れ鍋を経由してダイアゴン横丁へいくときはトムに手を握られて一歩後ろを歩いていたが、今回は大きなトランクもあるしそれどころじゃない。
重たい教科書に、着替えに、ローブ、杖……こんなに多い荷物を持ったことはない。孤児院の部屋にもこんなに私物はなかったはずだ。杖以外は全てリサイクルショップで取り揃えたので立派とは言えないが、それでも自分だけの物は心が踊る。オモチャもご飯も、孤児院では何もかも共有だ。
歩いている最中ショルダーバッグが不満そうに揺れる。誰にも聞かれないようにシューシューと音を出してラミアを宥める。ホグワーツからの手紙では蛇をペットとして持ち込むことは許可されていない。置いていくしかないのかと落ち込んでいたところで、リドルが当たり前のように「バレなきゃ問題ないだろ」と言ったので極秘裏に連れてくることにした。
「トムからも言ってよ、ラミアがずっとバッグ越しに私のこと噛んでくるの」
「毒はないんだから別にいいだろ」
「じゃあ、あなたが代わりに持って」
「やだよ、そんな花柄のやつ。女子みたいじゃないか」
嫌そうに顔を歪めて首を振るトムにくすくす笑い、無理やりバックをトムの首にかける。シンプルな半袖のシャツとジーンズを履いていた彼の服装に完全に浮いていた。それでも無理に外さないのだから、トムは優しい。
キングズクロス駅は広大で、孤児院がある辺鄙な街と違って人で賑わっていた。列車になんて乗ったことがないから分からないけれど、9と3/4番線はどこにあるのだろう。
「駅員さんに聞いてみる?」
「なんて聞くつもりだい? 僕たちホグワーツっていう魔法学校に行きたいんですけど……って?」
「なによ、意地悪ね」
トムは人混みに少し気が立っているようだった。いや、思い通りにホームが見つからないせいかもしれない。宥めようとしたところで、柵に向かっていく怪しい人物を見つけた。
服装は普通のそれだが、カートに乗っている荷物が多荷物な上に、フクロウが入ったカゴが載っている。トムのシャツの裾を引っ張って、顎でしゃくりその男の人を指せば、トムも興味深そうに見つめた。
幾つか私たちより年上だろうその男の人は明らかに身なりが良い服装で、ツンと尖った顎を少し上に向けていて気取っているようだった。何をするのかよく見ていれば、柵にさり気なく寄りかかった瞬間消えた。
驚きでトムと目を見合わせてその柵の前に行く。柵にそっと手を向けると、スルンと飲み込まれるように指先が消えた。驚きで小さな悲鳴をあげる。ここを通れば良いのだろう、ちょうど9と10番線の間だ。
「トム……」
不安そうな私の声にトムは分かってるよと言いたげに頷き、先ほどの男性と比べるとずいぶん小さいトランクを一緒のカートに載せた。トムが左手でカートを掴み、右手を差し出してくる。堪らず笑みを浮かべて、その手を握る。一緒にカートを押して前に進む。新しい世界はすぐそこだった。
prev / next