▼ 入学の案内1
あれからトムは机の上に置かれた一枚の何の変哲も無い紙を睨むようになった。バーナードもやはり底意地が悪い、ピンポイントでトムのコンプレックスを刺激するのだから。確かに、彼らの来ていた服は高そうだったなんて思いながら、今日もトムにべったりくっ付いて過ごす。
今日もまた、トムが鉄製の小さなベッドに足をまっすぐ伸ばして座り本を読んでいるので、腿に頭を乗せラミア相手に蛇後の練習をしていた。ラミア曰く、ここの毛布の触り心地は世界最悪らしい。そんなことないよとシューシュー言っていれば、トムがたまに間違った文法を本から目を離さずに直してくれる。
「トム? お客様ですよ。こちらはダンバートンさん――失礼、ダンダーボアさん。この方はあなたに――まあ、ご本人からお話ししていただきましょう」
ミセス・コールが来客を告げて良かったことなんてない。変な老夫婦だったり、精神科医だったり……散々だ。ダンダーボアさんは、これまた可笑しな格好の人だった。濃い紫の派手な背広に、長い鳶色の髪とヒゲはベルトに挟み込んでいる。怪しいお爺さんなんて最悪中の最悪だ、思わず起き上がってトムの後ろに躙り寄る。
トムは黙ったまま私が後ろに隠れたのを見やると、じろじろとダンダーボアを見つめた。胡散臭そうなものを見る目をしているが、その気持ちは大変よくわかる。まともな格好の老夫婦でさえあんなんだったのだ。格好さえまともでないこのお爺さんがまともな筈がない。
「はじめまして、トム。アビゲイル」
トムへの客じゃないのか。自分の名前を知っていることに些か驚きながらも、それを表情には出さず、躊躇しながらもしっかり握手を交わしたトムを見習って軽くダンダーボアと握手をした。
「私はダンブルドア教授だ」
ダンブルドアなんだ。ミセス・コールは酔っていたのだろうか。呆れながらも私の頭の中で名前を修正していれば、トムは違うところに食いついたらしい。教授という言葉に興味を示していた。魔法使いとか魔女ではなく、精神科医の方だと思ったのだろう。
私も変なことはやらかすが、トムの方は不気味なだけではなく精神異常者に思われることが多い。ミセス・コールが度々何かしら偽ってトムを精神科医に面談させるのだ。
「あいつは僕を診察させたいんだろう? 真実を言え!」
「トム、落ち着いて。ドクターがこんな変な格好してるわけないわ」
自分を診る必要が出ちゃうじゃないと小声で耳元で囁けば、トムの雰囲気が少し緩む。いきなり11歳に命令口調で言われたら気に触るのではないかと思ったが、ダンブルドアは微笑むばかりだ。トムは私の手を握り、警戒したようにダンブルドアを見つめた。
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