▼ 家族と家族4
容姿が良くて、物覚えのいい子がいい、出来ることなら才能がある子。
まるでペット探しのようだと思った。愕然とする私の横で、正体を現したなと10歳の少年には似つかわしくない大人びた口調でトムが嘲笑う。
「いい加減に、辟易したのよ。昔の学友の娘・息子自慢に」
にこやかに微笑むコレットはもはや別人だった。隣でバーナードは若干哀れなものを見るような目でコレットを見つめている。ああ、彼はもしかして妻の我が儘に付き合っているだけなのかもしれない。
今更、ペットをかわいがるような感覚で親子のように演じられたところで辟易する。親だって飼い主だって、私たちは欲していない。それなのに、何故トムは私の手を引っ張って、この部屋から連れ出してくれないのだろう。
「僕たちは、今更親だの愛だの、そんなクダラナイもの欲しくないんだ。下手な干渉もいらない」
「なんてこというの!」
「嗚呼、そうだろう」
対照的な反応だった。コレットとは正反対に落ち着いたバーナードが頷いた。どこか疲れを滲ませた目で私とトムを見やる。一度杖を隣のコレットに向けて振った。
「すまないね、私たちには娘がいたんだが……10歳になる頃に、私の大鍋をこっそり弄って……悲惨な事故だったよ。
周りの友人の子供たちはどんどん大きくなっていく中で取り残されていく、私たちの娘だけはずっと思い出の中で同じ姿のままだ。それから妻は徐々におかしくなってね」
今ではこの通りだと隣で眠るコレットを見やるバーナードに、この老夫婦がひどく哀れなものに感じた。穏やかに眠っているはずなのに、彼女の目尻から一筋涙がこぼれ落ちた。
「だからといって、何故才能にまで固執するんだい」
「幸いなのか不幸なのか、友人の子供は今はクィディッチ選手だったり魔法省勤めだったり優秀な子が多かった。そこでも酷い劣等感も抱いたようでね」
「だが、君たちを引き取っても恐らくはあの子の代わりにしようとするだろう。寂しさを埋めることができればと思い、私も里親になることに賛成していたが……やめておいた方が良さそうだ。すまないね」
立ち上がったバーナードが一枚便箋をトムに手渡した。
「もし、こんな状態の私たちのもとに来てくれるというなら、その手紙に書いて、燃やしなさい。そうすれば、私の元に届く……ここでの暮らしは苦しいだろう」
そう言ってバーナードの視線が裾のほつれたお揃いの灰色のチュニックをなぞった。心配で思わず隣を見やると、案の定コンプレックスを刺激されたのだろう、怒りやら恥やらで顔を真っ赤にしてトムはバーナードを睨んでいた。
私たちが、エレメンタリースクールで、金なし親なしと陰で馬鹿にされていることを知っているかのような口ぶりだった。
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