▼ 家族と家族1
「アビゲイル、部屋で待ってなさい」
ミセスコールの言葉に思わず首を傾げた。放任主義の彼女がわざわざ子供個人を呼ぶなんて、それこそトムと私の不思議な力と同じくらい不思議な話だ。
「アビー、一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫よ」
心配そうに眉を歪めたトムに首を振った。ここで不安げな顔を見せても、トムの心配を煽るだけだ。笑顔で、何か私やっちゃったかしらと朗らかに笑って見せても、トムの眉間の皺は緩まない。
「部屋の前で待ってるから」
渋々といった様子で引き下がったトムに思わず笑う。それに少し不満そうだったが、安心してつい笑ってしまったと伝えれば満更でもなさそうに「どうでもいい」なんて言いながらそっぽを向くので思わず抱きついた。
部屋の中にはソファに腰掛けた1組の老夫婦がいた。私が扉から顔を覗かせると立ち上がり、中に入るように誘う。恐る恐る、1歩また1歩と近づき、最終的には老夫婦の前に立った。自分よりずいぶん高い先に顔があり見上げていると、それに気づいた女性が膝を折って目線を私に合わせる。
「こんにちは、あなたがアビゲイル?」
「……あなたたちは?」
「自己紹介が遅れちゃったわね、私はコレット、こっちは旦那のバーナードよ」
「はじめまして、よろしく」
白髪が多めに混じった笑みを浮かべたコレットと、寡黙で厳しそうな印象を与えるバーナードが順に握手を求めるので、渋々ながら応じる。
「私に何の用ですか、コレットさん、バーナードさん」
随分と愛想のない子供に見えただろう。嫌な餓鬼だと思われたかもしれない。でも、それでいい。トム以外の人はみんな嫌い、信用なんて出来ない。私のこともトムのことも異端児扱いして、まるで私たちが悪いような態度をとる。血の繋がった母に捨てられたのだから、今更新しく親が欲しいなんて家族に夢見たりもしない。
トムとラミアが私の隣にいてくれれば、それでいい。
「実はね、私たちはあなたと家族になりたいと思って来たの」
無理にとは言わないわよと付け足すコレットを胡散臭く見つめた。この孤児院にはもっと子供らしい子供がいるだろう、それこそ養子に相応しいだろう子もいるはずだ。愛嬌もあって、私たちみたいに変な力を持っていない子が。
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