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▼ 大切な失くしもの3

 目が覚めたら近くで水差しの水を入れ替えてきたらしいトムが近くの机を整理していた。こちらを向いて不気味なほどにっこりと笑ったトムが手を出してというので、ベッドから上半身を起こし、素直に手を出す。

 手のひらの上に落とされたのは指輪が通されたシンプルなシルバーのネックレス。驚きに目を見張り、呆然とただネックレスを見つめた。

「どこで見つけたの?」

「遠足から帰った日、庭で見つけたんだよ」

 微笑むトムに思わず抱きつく。ああ、なんて最高なんだろう! トムはやっぱり特別だった、私にできないことを平然とやってのけるんだから。

「もう失くさないように気をつけて」

 もう一度私の手からネックレスを取ったトムはネックレスをつけてくれる。確かめるように指輪を手のひらに握り直した。

「お風呂の時以外はずっと着けてるのよ」

「じゃあ、その時も外さなくていいように僕がいつかプラチナの鎖に変えてあげるよ」

「そんなお金あったら貯金しなくちゃ。私も貴方も、いつか一文無しで此処を追い出される未来なのよ……貴方といれば、惨めな孤児だってことも忘れられるけど」

「それは同じ穴の狢だからかい?」

 くすくす笑う私を見るトムは少し不満げに眉を顰めている、それでも口元のほころびを隠そうとはしない。私の体を優しく倒して枕の上に戻し、前髪を撫で付けてくれる。

「そうだね、里親もできず、路上暮らしになったら働いてアパートを借りよう。哀れな僕らは大きな体に合わない狭い部屋でラミアと一緒に暮らすんだ」

「ふふっ全然哀れに聞こえない、むしろ楽しそうだわ」

「そういう事だよ、僕と君が揃えばどんなものも特別になるんだ」

 トムも私と同じようにくすくすと笑い汗でペタリと張り付いた前髪をそっとどかし、額に優しいキスを落としてくれた。

「じゃあ僕は部屋に戻るけど……いいかい、君はこのネックレスを僕に庭で見つけてもらったんだよ」

「恩着せがましいわね、分かってるわよ。ありがとう」

 この時の私は、帰ってきたエイミーとデニスの様子がおかしくて、気が狂ったように私にごめんなさいと謝り続けてくることなど夢にも思っていなかった。

 その時察したのだ、嗚呼、彼は私を守るために間違いを犯したのだと。それを咎める権利なんて私にはない、だって彼は私のためにしてくれたことを確かに嬉しく感じてしまった。例え間違っていたとしても。

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