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▼ 大切な失くしもの1

「ねえ、私のネックレス見なかった? 指輪がついてるやつ……見たことあるでしょ?」

 同室のエイミー・ベンソンはクスクスと笑って、とぼけたように答えた。

「知らなーい」

 その間抜けな顔を叩いてやりたい衝動に駆られたが、ただでさえミセス・コールに目をつけられている私とトムが問題を起こすのはよろしくない。エイミーに返事もせず、私は部屋を出た。

 次に向かう先は庭だ。あのネックレスは銀製なので、お風呂に入る時以外は肌身離さず着けている。だが、もしかすると外で遊んでいるときにチェーンが切れてしまったのかもしれない。お風呂上がり、濡れたまま外に出るのは寒かったけど、出ずにはいられなかった。

『ネックレス……見てない……トム……お揃い』

 懸命にたどたどしい蛇語で話しかければ、ラミアは私にも理解できるよう言葉ではなく首を振ることで答えた。シューシューと言う音は元気出してと言っていると今なら理解できる。トムとラミアのお陰で拙いが第二外国語のようなものが喋れるようになっていた。蛇語なので外国ではないけれど。

 ラミアに早く家に入りなさいと急かされても中々入る気になれない。もしかしたら、誰かに嫌がらせで指輪をこの庭に捨てられて可能性だってある。ラミアも万能ではないのだから、知らないかもしれない。

 芝生よりも雑草が多いこの庭で懸命に探すが、指輪なんて小さなものを探す事自体がそもそも無謀だった。いや、無いのは分かっていた。あのエイミーの意地悪な笑顔、彼女は元々私を好きではないようだったから、きっと犯人は彼女だ。

「アビー、寒いだろ。中に入れよ」

 慌てたようにトムが扉を開けて出てくると私を引っ張り立たせ、中に入れた。トムの首元に光るネックレスを見て思わず涙がこみ上げてくる。2つで1つのものなのに、大切な片割れを私は失くしてしまった。

「なくしちゃった、私の宝物なのに!」

「一体何を……まさか、指輪?」

 眉を下げて問いかけるトムに泣きじゃくりながら頷く。もう涙を止めることができなかった。急に悲しくなったわけでもない。ただ、トムを見たら安心して堰を切ったように涙がポロポロと流れ落ち、止めることはできなかった。

「泣かないで」

 トムに頭を撫でられ、思わず抱きついた。トムは私が落ち着くまでぽんぽんと頭を叩いた後、そっと離れた。トムがつけていたネックレスを外すと、私に着けてくれる。

「これは一旦返すよ」

「でも……それはトムにあげたものよ」

「一旦って言ったよ、アビーのが見つかったら返してもらうよ」

 そう言って微笑んだトムは、今日はもう部屋に戻ろうと言って私の手を引いて前を歩き始めた。その時のトムの表情は見えなかったが、私の手を握る力は強い。トムが自分のことのように怒ってくれているのが嬉しかった。

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