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▼ お喋り仲間2

 庭に来て、トムが何やらシューシューと――私たちは蛇語と呼んでいる――話すと、スルスルと木から一匹の蛇が降りて来た。部屋で飼うわけにもいかず、庭で放し飼いにしようということになったのだ……これを飼っていると呼べるのかは分からないが。

 名前はラミアというらしい。いや、彼女がもともと持っていた名前なのかトムと話し合って決めた名前なのかは分からない。ただ、トムに彼女はラミアさと言われた時、私が彼女をあなたに紹介したのと釘を刺してしまったのは仕方ない。

「今はなんて言ってたの?」

「こんにちは、さ」

『こにゃちは』

「惜しいね『こんにちは』だよ」

「『こんにち……』難しすぎるわ! やめよ、やめ!」

「本当に惜しいな、”こんにち”まで言えてたのに」

 ラミアと私の間はトムに入ってもらい通訳がわりの事をして貰っていたが、私が「私も話せたらいいのに」なんて呟いたせいで隙があれば蛇後講座が始まってしまう始末だ。ラミアも協力的なようだから困る。

『こんにちは』

『こんにちは』

 ラミアと挨拶だけでも交わせるようになったのだから褒められたっていいだろう。トムは英語を話している感覚で話せるらしいのが羨ましい限りだ。ただ、挨拶しただけでラミアが少し嬉しそうに首を揺らしたので蛇後の勉強も悪くないかもしれない。

「トムはやっぱり特別なのね」

「違うさ、僕たちが特別なんだよ」

 トムは瞳を輝かせると、近場の雑草にしては綺麗な花を咲かせているものを2輪ちぎり取った。トムは花なんて愛でるタイプだっただろうか。トムの突然の奇行に目を天にしていると1輪渡される。

「見てて」

 トムが手のひらの上にその花を乗せると、花はまるで手品のように開いては閉じてを繰り返した。食い入るように見つめていると、やってみてよと言われる。出来るわけないのにと渋々手のひらの上に乗せて見るが、やはり動く気配はない。トムは此方を見て早くやってみてと急かすが出来ないものは出来ない。こんな花枯れちゃえばいいのに!

「あ」

 花がみるみる内に萎びてからっからに乾燥したお粗末なドライフラワーのようになってしまった。

「アビーらしいよ」

 くすくす笑うトムにろくな反応を返せないまま花をじっと見つめた。トムはやたら私を特別視している。もし、私が今何も起こせなかったらどんな反応をしていたんだろう。……良かった。そう思うと自然に笑みがこぼれ、手のひらの上にあった花は瑞々しい最初の状態に戻っていた。

 この日の花をどうしても庭先に捨てる木にはなれなくて、私はこれを押し花にしようとそっとポケットにしまった。

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