▼ お喋り仲間1
トムの特別は私で、私の特別はトムだった。その事実は絶対に変わらないもので、他の子達と交流を持たない私たちは更に孤児院から浮いていた。いや、実際にはトムはもともと浮いていて、それに習うように私も更に浮いた。
トムはミセス・コールに料理の手伝いを申し付けられたので、1人で庭で遊んでいた。唯一暇つぶしになりそうな大木は、去年は木登りに失敗し落ちたためトムにこっぴどく叱られた――もう二度と、登るんじゃない!――ため、邪魔になるだろうトムがいない今をチャンスとばかりに登ってみることにした。
一番低いところにある枝に足をかけ、登っていく。まだ6歳の体には枝と枝の間が広く、少し遠く感じたが、それでも懸命に力を入れれば登れないことは無かった。
その時、茂みがガサガサと揺れ、思わず音の出所を探せば、黒く艶やかな小さな蛇がいた。普通の小さな女の子なら怖がるところだろうが、ペットなんて飼えない孤児院で見つけた貴重な生き物に思わずにんまり笑いを浮かべてしまう。
蛇の頭の根元を片手に持てば、蛇は慌てたように私の腕に巻きついたが、べつに敵意はないのかしめつけるようではない。恐る恐る付け根を握る手を離しても蛇は噛むどころか首を擡げて此方をじっと見つめるだけだ。
「なんて賢いの!」
歓喜に声を震わせ、急いで……かつ恐る恐る枝を渡り木から降りた。途中でトムは料理当番だったと思い出し、自分の部屋へ急ぐ。この時間はまだ誰もいないはずだ。
ベッドの下の宝物入れの段ボールから宝物をごっそりと抜いてベッドの上に置き、段ボールの中に蛇を入れた。逃げ出さないか不安だったけれど、塒を巻いて眠り始めたので大丈夫だろう。
段ボールをベッドの下に戻し、私は慌ててキッチンへと駆け出した。トムに早く蛇を見せてあげたい。その気持ちのまま、他の子供達に混じって料理を手伝うトムの静止も聞かずに腕を取り部屋まで走り出す。
トムは私の態度を不思議に思ったのか最初は何をするんだと言っていたが今は黙って走ってついて来てくれた。部屋につき、扉と鍵をトムが閉めてくれているのを確認してから段ボールを取り出す。
トムは驚いたように蛇を見つめた。私のベッドに腰掛け、段ボールを自身の膝の上に置いている。
「どこにいたんだい、蛇なんて初めて生で見るよ」
「……茂みにいたのよ」
「その間はなんだい、アビー」
蛇が塒を解いて、首をもたげた。シューシューと発してる独特の音が威嚇音のように聞こえて、トムに少し蛇を離したらと言おうとしたら、トムまで驚いたように顔を歪めてはいたものの同じような音を出したのだ。
「悪ふざけはやめてよ」
「アビーにはなんて言ってるか聞こえないの?」
「シューシュー音は聞こえてるわ」
「なんでだろう、僕は英語を話してるみたいな感覚なんだ」
お互いにしばらくの間見つめ合い首を傾げた。思い出したようになんて話してたのと聞けば、トムは意地悪く笑い「アビーが木に登ってたってさ」と言った。蛇を睨むが、シューシュー音は何を意味しているのか分からない。ただ、何のことだかわからないとトボけてるというのは私でも理解できた。
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