▼ 手紙2
オリヴィアとシリウスが大広間へ着くと、一斉に4つのテーブルから視線が集まった。昨日を思い起こさせる視線の多さにぎくりと固まるオリヴィアと堂々と隣を歩くシリウスに羨望の眼差しが集まる。足早にグリフィンドールで手を振っているジェームズたちの所へ急ぎ、席に着いた。
「やあ、オリヴィア。記念すべき最初の授業はなんだい?」
ジェームズがスクランブルエッグを口に入れたまま聞いた。くちゃくちゃと音がするので、隣でリーマスが微かに顔を歪めたが、取り繕ったような笑みを浮かべた。サラダを飲み込んだオリヴィアが答える。
「マグル学よ」
「おっと! 俺と同じだ!」
シリウスが大袈裟に仰け反り、驚いた風に言った。
「ウケるだろ? シリウスってば、親への反骨精神で履修したんだ」
ジェームズが、今度はパンを口に入れたまま笑った。リーマスが耐えかねたように、「口に入れたまま喋るとエバンズに嫌われるんじゃないかな」と独り言のように小さく零すと、ジェームズは口を閉じて急に黙り込んだ。誤魔化すように髪をクシャクシャに混ぜている。
「貴方が私に見惚れなかったのは、エバンズが好きだからなのね」
謎が解けた気分でくすくす笑いながら言ったオリヴィアに、ジェームズが――パンを飲み込んでから――呆れたようにため息をついた。
「君、世の男全員が自分に夢中になるなんて自惚れてるのかい」
その台詞に、今度はオリヴィアが黙りこくる番になった。
「事実、大半がそうなるんだ。仕方ないよな?」
シリウスが揶揄うように言ったが、オリヴィアは強気に言い返すことも、恥ずかしがることもできなかった。なにせ、先ほどの自分の発言を振り返ってみれば、ナルシストにも程があったのだから!
黙々とサラダを口にするオリヴィアにピーターがしどろもどろに「僕もオリヴィアは綺麗だと思うよ……」なんて励ましてくれるのだから、オリヴィアはピーターを3人の付き人だなんて思っていたことを心の奥底から懺悔しなくてはならなかった。
その時、一斉にフクロウが大広間へと入って来た。たくさんのフクロウは各々下降し、それぞれの届け主の元に手紙を置いていく。フクロウ便なんて見たことがなかったので、オリヴィアは目を丸めた。そして、その内の1羽がなんとオリヴィアの前に降り立った。
「私に手紙なんて……誰かしら」
オリヴィアが驚いたまま受け取った手紙を開ければ、そこには見慣れた文字があって思わず破顔した。
親愛なるオリヴィアへ
北アメリカにいる僕から、こんなにすぐ手紙が来て驚いた。しかもイギリス式で!
イギリスにいる叔父に頼んで、僕の手紙を送ってもらうように休暇中に渡しておいたんだ。
要するに休暇中に書いたから、僕はまだこの後君と遊ぶ約束もあるし、実はまだ全然寂しい思いをしていないんだ。
でも、断言できるよ。きっと君が手紙を読んでいる頃の僕は寂しさに打ちひしがれて、ポテト一本喉を通らないくらい衰弱しているだろうな。
君がいないイルヴァーモーニーなんて、不満を言わないパクワジみたいなものさ。退屈だよ。
そっちの学校はどうだい? アメリカの最先端の流行を追うのが生きがいで、古臭いホグワーシュに行くなんて最悪って嘆いていた君のことだ、きっと馴染めてないだろう!
でも、君のお父さんも酷いよ。ボーバトンかホグワーツだなんて……僕なら絶対カステロブルーシューだね。いっそアマゾンにでも送り込まれた方が、アメリカに対して諦めがつく。
そんなオリヴィアに朗報とともにこの手紙を締めくくるよ。クリスマスは僕も叔父の家で過ごそうかと考えてるんだ。その時にまた会おう!
心から愛を込めて
エディ
エディがイギリスに来るという事実にオリヴィアは思わず小さくガッツポーズした。無礼千万な手紙だったが、実際にホグワーツをホグワーシュと(くだらないものだと嗤いを込めて)呼んでアメリカで馬鹿にしていたのだからそう思われても仕方ない。
「君たちアメリカ人はホグワーツを馬鹿にしてたみたいだけど、初日を終えて感想は変わったかい?」
英国紳士とは思えないマナー違反な行為でオリヴィアから手紙を引ったくって読んだジェームズに、呆気にとられていたオリヴィアはなんとか頷いた。
「今のところ中々よ」
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