Fragments of star | ナノ


▼ 手紙1

 オリヴィアの朝は早い。元々早起きなのもあるが、彼女の並々ならぬ見た目へのこだわりのせいでもある。太陽の光が差し込み始めた時、オリヴィアは既に起き上がり制服に着替えていた。

 この黒のローブをどうすれば可愛く来こなせるのか、オリヴィアにはいまだに謎だ。姿見に映る自分を見て顔をしかめたオリヴィアはせめてこれくらいはと言いたげに黄金と紅に輝くネクタイを緩めに締め、太めのカチューシャを着けた。

 ベッドに腰掛け、ファッション雑誌を見ながら髪を杖でブローする。こういう時、魔女で良かったとオリヴィアはつぐづく思う。とてもではないが、雑誌の中にいる動かない女性たちのように毎日手で編み込んだり重そうな「ドライヤー」を長時間持つことなんて出来ないだろう。

 ベッドに腰掛けたまま、左手に鏡を、右手にアイライナーを持って器用に瞳を縁取っていく。斜め向かいのベッドがもぞもぞと動きリリーが起き上がった。彼女は何故か濡れた髪のまま寝たとしても翌朝には真っ直ぐサラサラの髪に仕上がる不思議な髪質の持ち主だった。

 マーリンはオリヴィアがマスカラを塗り終わった頃に起きた。髪があちこちに跳ねたりうねったりしている。リリーはくすくす楽しそうに笑いながら、寝ぼけ眼のマーリンの髪に杖を当てて真っ直ぐにしていく。マーリンはされるがままで、オリヴィアに渡された歯ブラシを口に突っ込んだまま固まっている。

「ハロー、そこに誰かいるの?」

 オリヴィアが笑いながらマーリンの頭をノックするようにコンコンと叩くと、マーリンは「失礼ね!」とプリプリ怒りながらようやく覚醒したのか歯ブラシを小刻みに動かし始めた。その様子に笑いながら、一足先に教科書を突っ込んだ鞄を持って下に降りる。リリーとマーリンと行けば良いのだが、残念なことに取っている科目は1限から別だった。

 階下に降りたところで、ソファに座っていたシリウスが片手を上げた。足を伸ばし、足先だけ組んでいる。長い脚は暖炉すれすれの位置だった。シリウスも髪型から服装まで完璧で、制服も絶妙な加減で崩している。これは朝からセットに時間をかけているに違いないとオリヴィアは思った。

「朝食、一緒に行こうぜ」

 シリウスが立ち上がりオリヴィアへと近寄ると、さり気なく鞄を受け取った。未だ慣れない英国紳士ぶりに若干動揺しながら、オリヴィアは辺りを見渡す。

「他の3人はどうしたの?」

 談話室はまばらに人がいるが、あの3人が――特にジェームスあたりが――いれば、目立つこと間違いないだろう。しかし、いる気配はない。ピーターに関してはいても気付けないかもしれないなんて失礼なことをオリヴィアは考えた。

「先行って席取ってくれてる」

 何でもないように首を振ったシリウスにオリヴィアも納得したように頷いた。シリウスに続いて肖像画の穴を抜け、廊下に出る。そのまま廊下を通って階段を降りようとしたところで、シリウスがオリヴィアの方へ頭を傾けた。

「オーデゲラン?」

 良い匂いだと言って、頭を傾けたままシリウスがすんすんと微かに鼻を鳴らして嗅ぐので、オリヴィアはギョッとした。

「ノーマジの、それも女物な香水に詳しいってあんまり自慢出来ることじゃないわ」

「ノーマジ?」

 オリヴィアの嫌味を気にした素振りを見せず、シリウスは「ノーマジ」という単語に引っかかったようだ。

「イギリスではマグル……だったかしら」

 先日の駅での会話を思い出して、オリヴィアは答えた。

「君の英語、方言が酷いよな」

「方言じゃないわ、れっきとしたアメリカンイングリッシュよ! もう、ここの生徒は全員アメリカを馬鹿にしてるの?」

 聞いたことのあるような侮辱に――つい昨日ジェームズにも言われた――オリヴィアは眉を寄せシリウスを睨む。

「そんな事ないぜ? 他国の文化は尊重するよ、例え古臭い純血主義に似た社会であってもな」

 シリウスは嫌そうに言った。全く尊重する気はありませんと顔に書いてある。

「純血主義?」

「アメリカは”ノーマジ”と結婚するのだって法律で禁じられてるんだろう? 英国は禁じられてないが、魔法族に非魔法族の血が混ざるのを嫌がる連中もいる」

「ラパポート法は廃止されたわ。それに、隠れるためには仕方なかったのよ。今もアメリカで魔法族も魔法生物も、とっても生きにくいから」

 どこか傷ついたような諦めた口調のオリヴィアに「もしかしてオリヴィアは混血?」と、不躾な質問をした。アメリカでもイギリスでも失礼な質問にあたるに違いない。

 オリヴィアは「ハーフよ。だから、こうして"疎開"してるわけ。」と片眉を上げながら答え、「それが何か?」と皮肉げに聞く。シリウスは「最高だ」と満面の笑みを浮かべた。


prev / next

[ back to top ]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -