Fragments of star | ナノ


▼ 転校生3

 大広間に着き、思わず4人に流されグリフィンドールに座ってしまったオリヴィアは消えてしまいたい気持ちになった。広間の大勢の生徒が好奇心に満ちた目でこちらを見るのだ。

 見られる原因は転校生という存在だけでなく、オリヴィアの容姿だ。ただでさえ注目を浴びているイタズラ仕掛け人が見知らぬ美しい女子学生と共にいるのだから、好奇心を抱かない方が難しいだろう。

 オリヴィアは居心地悪そうにしている一方で、シリウスは得意げだった。仲が良さそうな男友達の口笛に、やめろよと満更でもなさそうに笑っている。

「最悪だわ、私とっても浮いてるわね。」

 重苦しいため息を吐いたオリヴィアを励ますようにシリウスは肩を叩いた。

「人気者ってのは常に見られる宿命なのさ。」

「私の場合、人気者だからじゃなくて、転校生だから見られてるのよ。」

「オリヴィア・ホワイト、来なさい。」

 大広間の扉から姿を現した厳格そうなエメラルドグリーンのローブに身を包んだ女性が通る声で言った。慌てて椅子から立ち上がったオリヴィアは、急ぎ足で彼女の元へ向かった。

 長いテーブルの間を歩く間、男子から感じる熱視線や複数の女子からの嫉妬の視線や憧れの視線を一身に浴びながらオリヴィアは彼女について大広間から脱出することに成功した。

 マグゴナガルと名乗った彼女は変身学の先生らしい。彼女に待っているように言われた小部屋で1人ぼーっとする。大広間では何が始まったのか、一定の間隔で大きな拍手が聞こえてくる。手持ち無沙汰に自分の杖を弄りながら待っていると扉が開いた。

「ミスホワイト、あなたの組み分けの番ですよ。」

 マグゴナガルに呼ばれ着いていく。しんとした空気の中、4つに並ぶ長テーブルの一番前、先生方が座るテーブルの前へと連れてこられた。近くには薄汚い三角帽子が置かれた丸椅子が置かれている。

「はるばるアメリカ、イルヴァーモーニー校から転校生が来た! わしが長々と話すより、皆も彼女の自己紹介を聞きたいことだろう。さあ、オリヴィアや。」

 半月形のメガネをかち割りたいとオリヴィアが思ったのはこれが初めてだ。この大勢の中、みんなの前に出て自己紹介なんて何を考えているんだろうか。

 こっそり寮分けして、寮内の子に挨拶だけすれば良いだろうに。オリヴィアは真白のほおを赤く染めながら、精一杯の笑みを広間の生徒たちに向かって浮かべた。出来るだけ、アメリカらしい明るい雰囲気で挨拶をしたい。

「ハーイ、オリヴィア・ホワイトよ。自己紹介なんて何を言えばいいのか分からないから困るわ。どの寮に入るかは分からないけど、関係なく皆と仲良くできたら嬉しいわ。これからよろしく。」

 オリヴィアの自己紹介は大きな拍手で締めくくられた。口笛が聞こえ、ちらりと音の出所を探せばジェームズとシリウスがにやにやと笑いながら指笛を吹いているではないか。彼らに向かって少し顔をしかめ、マグゴナガルに言われるがままに三角帽子を手に椅子に座る。

 頭に被ろうとした瞬間、被るか被らないかのところでグリフィンドールと大きな声で帽子が叫び、驚いたオリヴィアは帽子を危うく落とすところだった。グリフィンドールの大歓声と、他のテーブルから聞こえる落胆の声を聞きながらオリヴィアは急いで先ほど自分がいたテーブルへ急いだ。テーブルの端の席に一年生と並んで座ろうとすれば、「来いよオリヴィア」と大声でイタズラ仕掛け人たちに呼ばれ更に注目を浴びる羽目になった。

 小走りで彼らの元へ向かえば、シリウスからのハグで迎えられた。その瞬間聞こえた女子生徒の悲鳴に嫌な予感がし、それを誤魔化すためにもシリウスの隣に座っていたルーピンにもオリヴィアは抱きついた。そのまま、ジェームズとピーターと握手を交わし席に座る。

「ルーピンには自分からハグするんだ。」

 シリウスは意地悪そうに口角を上げ、首を若干かしげた。揶揄うように、オリヴィアの髪の毛を指に巻き付ける。

「私と仲良くしたいなら、もう少し工夫した方がいいわ。」

 シリウスの手を引き寄せそっと指先に唇をつけたオリヴィアは上目遣いにシリウスを見つめた。顔を今度こそ真っ赤に染めたシリウスが固まる。そんな様子に肩をすくめたオリヴィアは、ジェームズと何故か赤くなっているピーターに笑いかけた。

「自惚れじゃないけど、好意を向けられることは多いのよ? こんな簡単な手じゃ、靡かないわ。」

「今は不意をつかれたようだけど、我が相棒シリウスは数多くの女子を落とした手練れだからね。どっちが勝つのか楽しみだよ。」

「女の子だけど、なんかカッコいいね。」

 3人で笑いながらテーブルの上に現れたゴブレットに入ったカボチャジュースで乾杯した。

「そういえば、オリヴィアはなんで転校する事になったんだい?」

「家庭の事情っていうやつよ、アメリカはちょっと住みにくかったの。」

 肩を竦めたオリヴィアに、ピーターは聞いて欲しくないのだろうと察したのか、そっと謝った。

「ううん、此方こそゴメンなさい。」

 申し訳なさそうに肩をすくめたオリヴィアは次の瞬間には目を輝かせた。目の前に現れたのはローストビーフ、ローストチキン、ポークチョップ、ラムチョップ、ソーセージ、ベーコン、ステーキ、ゆでたポテト、グリルポテト、フレンチフライ、ヨークシャープディング、豆、にんじん、グレービー、ケチャップ、それとハッカ入りキャンディが並んでいた。

 豆やにんじんを多めにとり、少しばかりローストチキンとゆでたポテトを乗せたオリヴィアの皿にジェームズはおえーっと口に手をやり吐く真似をした。

「君はウサギか何かかい? 豆とにんじんばっかり!」

「ただでさえ細いのに! いつか鶏みたいな足になるぜ。」

 オリヴィアが取ったチキンを顎でしゃくり、シリウスは(とても行儀が悪いことに)ステーキを一枚とフレンチフライを投げるようにオリヴィアの皿へ入れた。ポテトの山に頬をヒクつかせながらも、一度取った物を大皿へ戻すなんていう行儀の悪い真似ができなかったオリヴィアはヤケになったように口いっぱいにポテトを頬張った。

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