▼ 転校生2
「イルヴァーモーニーからだって? 本当に遥々アメリカから?」
興味津々なシリウスにオリヴィアはええと頷き、足をどかし空けてくれたシリウスの前の席へと座った。ジェームズがトランクを上げてくれたので、オリヴィアはありがとうと言いながら手元のハンドバッグを漁る。
「ほら、これがイルヴァーモーニーのローブよ。可愛いでしょ?」
一枚の写真を取り出したオリヴィアは4人に渡した。写真の中には綺麗に微笑むオリヴィアとチラチラと彼女を見つめるブロンドの男子生徒がいた。2人とも青とクランベリーのローブに身を包んでいる。
「ホグワーツだって明るく華やかなローブだろ?」
片眉上げてそう言ったジェームズにオリヴィアはくすくすと笑った。
「そうさ、君の銀髪には黒が合う。夜空みたいで綺麗な色合いだよ。」
体を前に乗り出し、オリヴィアの髪をひとふさ手に取ったシリウスは本当に綺麗だと惚れ惚れしたように呟いた。それでも、目は真っ直ぐにオリヴィアを見据えている。彼の口説きテクニックの一つだろうか。
「オリヴィア、気を付けろ。シリウスは狼みたいに見境がないんだ。」
ジェームズが言った。
「それはムーニーだろ?」
それに対し、体を起こしたシリウスはにやりと笑いながら首を傾げた。一瞬の間の後、何が面白かったのか2人はゲラゲラと笑い出した。
「やめなよ、2人とも。」
呆れたように首を振ったルーピンは、騒がしい奴らでごめんよと謝った。
「別に平気よ、ムーニーって?」
「さあな?」
シリウスが意味ありげに微笑んではぐらかすので、それなら最初から話題に出さなければ良いのにとオリヴィアは眉を顰めた。シリウスは、気にする素振りも見せず、それよりと話を切り出した。
「これって君の彼氏かい?」
そう言って指差された写真にいるのはブロンドの男子生徒だ。
「いいえ。親友って言うべきかしらね? エドワードよ、誰に対しても平等で正義感に溢れた素晴らしい友人だわ。」
オリヴィアは寂しげに目を伏せた。いつも一緒にいたエディーーエドワードーーも、今は海を挟んだ遠く向こうにいる。
「君もホグワーツで素晴らしい友が得られるさ、グリフィンドールに入ったらの場合だけどね。」
「グリフィンドールって? 」
その後説明してくれたジェームズの説明では、最高にクールで仲間思いなグリフィンドール、頭でっかちでプライドが高いレイブンクロー、温厚だけど頭の出来がイマイチなハッフルパフ、陰険邪悪で入ったら死んだほうがマシなスリザリンの4つに寮が分かれているそうだ。なんて主観的な説明なんだろうとオリヴィアは目を丸めた。
「グリフィンドールに入れば、最高の学園生活を保障するぜ。マローダーズが!」
自信ありげな笑みを浮かべたシリウスが差し出した手を握り返しながらオリヴィアは苦笑いを浮かべた。
「マローダーズ?」
「そう、つまらない学業に疲れ果てた生徒たちに笑いや驚きを提供するのさ。」
ニヤリと笑ったジェームズが突然コンパートメントで花火をつけ、主にピーターとオリヴィアが悲鳴をあげる羽目になった。
「うるさいわよ、静かに席に座ることもできないの? 」
真っ赤な髪に緑色の瞳、気の強そうな可愛い女子がバーンとコンパートメントの扉を開け放った。
「やあ、エバンズ。君もこっちに座らないかい?」
「あら、はじめましてよね? 私はリリー・エバンズよ、よろしく。よければ私たちのコンパートメントに来ない? 此処は煩いでしょ?」
少しにやけたジェームズはクシャクシャな髪を撫で付けるように手をやりながら先ほど扉を開けたリリーに声をかけた。しかし、リリーはジェームズに冷たい眼差しを向けただけで、オリヴィアに微笑みかけた。
「オリヴィア・ホワイトよ、よろしくリリー。ホグワーツまでそろそろだから大丈夫よ、有難う。」
微笑んだオリヴィアにリリーは目を輝かせた。
「オリヴィアみたいにすごく綺麗な人は初めて見たわ! ヴィーラにも負けてないわ、絶対よ!」
「ああ、オリヴィアがヴィーラって言われても納得できるかもな。」
「そんなに綺麗じゃないわよ。」
リリーに賛同したシリウスがまじまじと見つめてくるので、オリヴィアは視線を落としそっと否定した。そして、リリーを見てにこりと笑った。
「貴方の方がよっぽど綺麗、緑の瞳がすごくキュートだわ。」
「やめて頂戴。」
照れたように笑ったリリーは、その時ちょうど流れた間も無くホグワーツへ到着するという放送に慌てて自分のコンパートメントへと戻っていった。
「君も僕らとくればいいよ。こんな大雨の中湖を渡れば凍死するかもしれないからね。」
「一年生の中に混じって舟に乗るだけで、凍死する前に恥ずかしくて死ねるさ。」
ルーピンの申し出とシリウスの一言に後押しされ、列車から降りたホームで1年生はこっちだと言っている大男の方へ向かうのは止めることにした。確かに、転校生だからといって新入生と一緒にこの雨の中舟に乗る必要はないだろう。
そっと杖を出し、真上に向け傘を作り出すと4人は感心したように驚き、やり方を教えてくれと言った。彼らは防水魔法だけで普段済ませるらしい。アメリカの魔法使いなら誰もが使う生活魔法を知らないのか――と軽いカルチャーショックを感じながらオリヴィアは皆に丁寧に教えた。
「洒落てる魔法だな。」
傘を消し、先に馬車へ乗り込んだシリウスが自然な動作で手を差し伸べてくれたのでエスコートを甘んじて受けたオリヴィアは少し気恥ずかしくなった。英国紳士というやつだろうか。シリウスは慣れているのか、とても優雅だ。こんな風にエスコートされたのは初めてだったので、照れてしまいそう。
馬のいない馬車は、全員が乗ると自然と動きはじめた。傘より、こういう魔法の方が魅力的だ。誰がかけた、一体どう言った魔法なのだろうか、馬のいない馬車なんて!
「ようこそ、ホグワーツへ。」
にこりと笑ったルーピンがそっと馬車の窓を指差した。窓に浮かぶ黒い大きな城影、無数に光る窓明り。オリヴィアは、わぁと感嘆のため息を漏らした。ホグワーツも中々良いというものではないだろうか。
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