Fragments of star | ナノ


▼ 転校生1

 鏡の前にはイルヴァーモーニー校のローブに身を包む銀髪の美しい女子生徒が映っていた。青とクランベリーの色合いのローブは自分の銀色の髪に映えるからオリヴィアは気に入っている。それでも、このローブはもう今日から用済みだ。

 悲しげに目を伏せたオリヴィアはそっと背後のベッドに置いてある黒いローブを取り上げると、名残惜しいのかゆっくりとそれに着替えた。漆黒の布地では真白に近い髪や肌が浮いて見えると鏡に映る自分を見て顔をしかめたオリヴィアは杖を持ち、大きなトランクと自身に向かって振った。

「インパーピアス 防水せよ」

 外は生憎の大雨だ。「最高の転校日和よね」と誰に向けるでもなく呟きながら、グルリと目を回す。オリヴィアは化粧台の上にあるブレスレットをそっと手に取った。

「3.2.1……」

 時計の秒針を見つめ、オリヴィアは何かのカウントダウンをする。彼女が瞬きをした次の瞬間、着いた先は駅の近くの細い路地裏だ。

 アメリカから一瞬でこの場所に移動できたのは、ボートキーとして渡されたブレスレットのお陰だった。イギリスの地理には詳しくないから姿現しなどしようがない。それに加えて海を挟んで遥か彼方にあるイギリスへの長距離を跨ごうものなら、バラけるのも確実だ。

 ダンブルドアも便利な物を寄越してくれたと感心しながらローブのポケットへと突っ込む。オリヴィアは9と3/4番線を探しに重いトランクを持って駅構内へと進んだ。なんとか見つけたカートにトランクを乗せ進むが、何時もの事だが人の視線が煩わしい。

 自分の黒いローブ姿がロンドンの街中では更に浮いてしまうと十分に承知していたオリヴィアは苛立ちから舌打ちをし、髪をかきあげた。それでも、コンパートメントで着替えなんてしようものなら誰に覗かれるか分からない。自惚れでもないだろう。イギリス人は陰湿だと聞いている。

「お困りですか?」

 頬を赤らめ声をかけて来た駅員にオリヴィアはニコリと微笑む。更に赤くなった頬への嫌悪感で、自然と口角は下がる。

「困ってなんかないわ。」

「行き先を教えて下されば、ホームまでご案内しますよ。」

「貴方にホグワーツが分かーー」

「こんな所にいたのか! 連れが失礼したよ。」

 しつこく食い下がる駅員にイライラし始めたオリヴィアの話に第三者の声が割って入った。突如割り込んで来たクシャクシャの黒髪の男はオリヴィアに付いてくるように小声で耳打ちすると、呆然とする駅員を置いて彼女と似たような大荷物のカートを押して進み始めた。カートの上に積まれた鳥籠の中から焦茶の木兎が神経質そうに羽をばたつかせた。

「君、ホグワーツ生じゃないだろ? よりによってマグルにホグワーツの話をするなんて……」

「マグル……ノーマジのこと? ご生憎様、私もホグワーツ生よ。このローブが見えないの?」

 人通りの多い中見つけた煉瓦の壁を、ここがお目当の場所だよと告げた男子は一足先には壁をするりと抜けて行く。

 ーーなんて面白い仕掛けなの!

 オリヴィアが慌てて追いかけると、一瞬で景色が変わった。もくもくと白い煙を上げる、紅に輝く蒸気機関車が止まっている。

「さっきの話だけどね、ノーマジって方言、君アメリカ人だろ?」

「方言って言い方はやめてちょうだい。 れっきとしたアメリカンイングリッシュよ。」

 失礼な物言いの男子はオリヴィアの反論を鼻で笑いながら田舎から遥々ようこそと言って手を差し伸べた。その態度にイラっとしたオリヴィアは、少しは恥をかかせてやろうと髪を耳にかけ出来るだけ魅力的に微笑み手を握り返す。

 だが、全く効いていないようで、男子は不思議そうに首を傾げながら握手した。己の自惚れに思わず唇を柔く噛む。
 オリヴィアは自分にすぐ夢中になる男子達に辟易としていた筈が、自分に全く興味を持たれないのも気に食わないらしい。少し顔をしかめて手を離した。

「僕はジェームズ・ポッター。君は?」

「オリヴィア・ホワイトよ、よろしく。イルヴァーモーニーから訳あって転校する事になったのよ。」

 話しながらカートを押し、汽車に乗り込み中を進んで行く。どこもコンパートメントは満員だった。

「よければ僕らのところにおいでよ。席余ってるだろうから。」

「ありがとう、優しいところもあるのね?」

 片眉を上げながら首を傾げれば、ジェームズはくしゃくしゃの髪を更に混ぜながら、ホグワーツまで立ちたくないならついてくればと鼻で笑った。

「ようこそ、僕らのコンパートメントへ。」

 慇懃無礼な態度でお辞儀をしながらジェームズはそっと扉を開けた。扉の先にいたのは、ハンサムな黒髪に灰色の嵐のような瞳の男子、明るい茶髪のヒョロヒョロとした緑色の瞳の男子、それとくすんだ茶色の髪と青色の瞳の酷く場違いな男子だ。

 このメンツを考えれば最後の男子は付き人のような立ち位置だろうと失礼なことをオリヴィアは思った。

 男子の視線がジェームズから自分へ移り、全員揃ってぼおっとなってるのを見てオリヴィアは呆れるとともに効かなかったのはジェームズだけかと安心した。

「おい、ジェームズ。エバンズから乗り換えるのか?」

 1番最初に復活したハンサムな男子は、先程見惚れた間抜けな姿を取り繕うように長い脚を組んで優雅に笑った。

「まさか。それより、シリウスはまた春でも来たのかい? 随分と季節の巡りが早いな」

「私はオリヴィア・ホワイト、転校して来たの。よろしくね。」

 オリヴィアはジェームズのからかいを無視してシリウスに手を差し出した。

「シリウス・ブラックだ。」

「ブラック?」

 キョトンと聞き返したオリヴィアにシリウスはウンザリしたように舌打ちした。

「俺をブラック家として見るのはやめてくれないか。」

 イライラとした口調に、慌てて首を振りオリヴィアは説明した。

「だって、シリウスはどう見ても白人だから……なんで苗字がブラックなのかと思って。不快だったならごめんなさい。」

 オリヴィアの言葉に固まった4人は、次の瞬間プッと吹き出した。

「ははは! 今のはシリウス、君の自意識過剰だったね。僕はリーマス・ルーピン、よろしくオリヴィア。」

 ヒョロヒョロとした男子が一頻り笑ったのち、名乗るとオリヴィアに向けてニッコリ笑いかけた。とても柔和で優しげだが、何故か傷跡が目立つ。意外に喧嘩っ早いということだろうか。

「気にする事ないよ、シリウス! あ、僕はピーター・ペティグリューっていうんだ。」

 顔を真っ赤にして小声で名乗るピーターにオリヴィアが微笑みかけると茹で蛸のように益々赤くなった。

「勝手に勘違いして悪かった。」

 恥ずかしそうに髪をかきあげたシリウスの首は僅かに赤く染まっている。それを見て皆さらに笑った。

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