Fragments of star | ナノ


▼ 手紙3

 マグル学の授業は北塔の教室で行われた。石造りの教室はホグワーツ城の雰囲気から大きく離れていた。壁際には洋服を着せたトルソーや、沢山の針が2本しかない時計、飾り棚にはバスや汽車の模型が所狭しと並べられている。

 教授のトニー・ロイドは、中年の男性教師で、ふくよかという言葉が裸足で逃げ出すような体型だった。腹が邪魔をして靴紐を結べなさそうだとオリヴィアは思った。顎全体を覆う髭を編み込んで洒落込もうとする姿は、憐憫さえ誘う。

 教室にいる人はまばらで少ない。レイブンクローと合同授業であるにも関わらず、教室の広さを持て余していた。オリヴィアの知り合いでは、この授業はシリウスとリーマスだけだった。マグル学は、リリーもマーリンもマグル出身だから取っていないそうだ。成績が良くなりそうなのに勿体無いとオリヴィアは思った。

 マグル学に興味はなかったが――なにせ、アメリカは長い間魔法族と非魔法族は交流を禁じられていた――異文化理解の楽に単位が取れる授業に違いないと思って履修を決めた。教室には意外と人が少なく、ハズレの授業だったのかもしれない。

「この授業って、どんな感じなの?」

 オリヴィアは小声で隣に座るリーマスに聞いた。

「案外楽しいよ。少なくとも、魔法史よりは全然」

 リーマスは楽しそうに笑った。彼の手元は、羊皮紙と羽ペン、インク瓶、それになぜか雑誌のようなものが置いてあった。表紙のスーツを着た壮年のかっこいい男性とドレスを着た若い女性は動く気配がない。もしかしてマグルの雑誌だろうか。オリヴィアが以前エディから貰ったマグルが出版したヘアメイク本は、中の人物が1人も動かなかった。

 首を伸ばしてシリウスの手元を見れば、同じように雑誌を持っていて、表紙の女性も動かない。ペトリフィカス・トタルスをかけられたようだ。加えて、シリウスの雑誌に映る女性は大胆にもビキニ姿だった。

「みんな、夏休みはどうだったかな? 課題に出したマグルの文化を共有しよう。誰からにしようか……ああ、ミスホワイトは結構」

 ロイド先生が教卓に腰掛け(教卓は悲痛な呻き声を上げた)話し出した。課題なんて聞いてないと顔に出ていたらしく、ロイド先生は首を振った。

「はい」

 リーマスが手を上げた。

「よし、ミスタールーピン。君からだ。君の自主性にグリフィンドールに1点加点」

 ロイド先生が微笑んだ。

「こうやって寮対抗で点数稼いでるんだ。リーマスは俺たちの稼ぎ頭」

 シリウスが椅子を後ろに傾けて、リーマスと被らないように顔を出して小声で言った。

 ロイド先生が杖をビュンと振ると、教卓に積まれていた白地のノートが生徒一人一人に配られた。もう一度振ると、オリヴィアの前に置かれていたノートは淡く光り、光が収まるとルーピンが持っていたものと同じ表紙になった。

「僕が皆さんに紹介したいのは、映画雑誌です。マグルの写真は動きませんが、『映画』という――」

 マグル学が案外楽しいというリーマスの言葉は嘘だった。こんなに楽しい授業は受けたことがない! マグルは劣っているなんて出まかせを言ったのは誰だったのか。映画やバイク、ロックバンド、どれもクールなものばかりだ。

 オリヴィアは夢中で羊皮紙にメモを取った。隔絶された環境で育ったオリヴィアにとってマグルについて今回仕入れた情報はどれも目新しく、斬新だった。ペンの羽先で顎をくすぐりながらオリヴィアはうっとりと、自分がロックバンドのコンサートに参加している姿を想像して思いを馳せた。

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