immature love | ナノ


▼ 秘密の部屋3

 凍るような静けさの中、薄明かりの部屋にソフィア はいた。此処は部屋の入り口のようで、目先には蛇が絡み合う彫刻が施された石の柱が上へ上へと聳えている。天井は暗闇に溶け込み、部屋の高さがどこまであるのか分からなかった。

 冷たい石の壁に囲まれた、酷く陰鬱な部屋だと思う。柱の蛇の目が虚ろで薄気味悪い。まるで、侵入者を見張っているように、なぜか見られているような気がした。足が床に張り付いて、棒立ちになる。

 柱が続く道の先に、高く高く聳える石像があった。壁を背にしていて、年老いた猿のような顔をしている。魔法使いの流れるようなローブが見事に石で表現されていた。ローブからは、2本の足が見える。そして、その足の間に少女が横たわっていた。

 燃えるような赤毛は幼い頃に見飽きてしまった。他の兄弟と違って長く真っ直ぐに伸びた豊かな赤毛が床に散らばっている。ソフィアにとって身近な妹とも言える存在が、そこにいる。石像への恐怖も忘れ、ソフィアが駆け寄れば青ざめた顔で横たわっているが息はあった。

「ジニー!」

 壁に反響して、ハリーの叫びに近い声が木霊する。ソフィアが先ほどいた入り口にはハリーがいて、途中でジニーに気づいたらしい、一心不乱に駆け寄ってきた。ぶつかると思い退こうとしたが、ハリーはソフィアの体をすり抜けていく。

 何が起こったのか分からずキョロキョロしていれば、柱の陰に一人の青年がいるのが見えた。上級生のようだが、見覚えはない。髪型は緩くパーマのかかった一昔前のものなのに、酷くハンサムで古臭さは感じられない。

 彼が楽しそうに口角を上げ、此方を――ソフィアを――見た。

 まだ日も出ていない早朝に――夜更けといった方が正しいかもしれない――ソフィアは飛び起きた。まだ息が荒く、胸が上下する。恐怖でまだ背筋が震えた、別に目が合ったわけでもない、ソフィアを見たわけでもないのに震えが止まらない。

 あの男はソフィア越しにハリーたちを見ていただけのはずだ。それでも、あの男と目が合ったと錯覚した瞬間、ソフィアは背筋が凍るような恐怖を感じた。その恐怖を原動力に転がるようにベッドから降りて机に向かう。頭の中がぐちゃぐちゃで纏まらない。ただ、思いの儘に羽ペンを滑らせた。

 大好きなパパへ
  壁に血文字で「秘密の部屋は開かれたり」と書かれていました。その上、その文字のすぐ下には石になったミセス・ノリスがいたんです。
 実は、学校が始まる前に、同じ光景を夢で視たことがあります。前にも同じような予知夢を視たことがあって、今朝も嫌な夢を視ました。
 パパやルーファスおじさんが調べて、秘密の部屋がないって事は分かってるんだけどどうしても不安になったから手紙を書きました。
 それに、今朝、見たこともない部屋にジニーが倒れている夢を見たんです。蛇の柱があったり、まるで……秘密の部屋みたいでした。
 そこには見たこともない青年もいたんです、もしかしたら彼が継承者なんじゃ無いかと思えて。
 本当に秘密の部屋は無いのよね? 悪戯に違いないと思っていたのに、今朝の夢を見てから心臓が握りつぶされたみたいに痛いんです。
  ソフィア

 手紙を封筒に入れ、蝋を垂らす。ソフィアはパジャマにガウンだけ肩に引っ掛け、かかとを潰してスニーカーに足を突っ込み、勢いのまま寮を飛び出した。


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