immature love | ナノ


▼ 夏休み4

「そういえば、ソフィア、学校生活はどう? 楽しい?」

「実はね、ボーイフレンドができたの」

 ソフィアは声を潜めて言った。ソフィアの頬は紅潮して、真っ赤になっていた。

「うわー良いね。私も知ってる子? 確か、セドリックとギリアンと仲良かったわよね」

 トンクスは楽しそうに笑って、ソフィアに話の続きを促した。

「二人と今も仲良しよ。私が付き合ってるのはね、フレッド・ウィーズリーよ。グリフィンドールのウィーズリー家の……知ってる?」

「知ってるよ。チャーリーとは同級生だしね」

「チャーリーとビルと結婚するってあれだけ言ってたのにねえ」

 クレアや紅茶の入ったポットとティーカップを浮かせてテーブルに配りながら、揶揄うように言った。

「ウィーズリー・フリークじゃん」

 トンクスが自分で言って自分で笑った。クレアも笑っている。ソフィアだけは、自分が揶揄われていることに顔をしかめた。

「違うわ」

「はいはい、分かってるよ」

トンクスは適当に頷いた。

「ところで、大変だったらしいね」

「石になったこと? それがね、全然記憶がないの」

「あー――まあ、それもだけど。ていうか、大丈夫だった? 後遺症とかない? それよりも、闇の魔術に対する防衛術の先生のことだよ」

 ソフィアは首を振って、「先生?」とおうむ返しで聞き返した。まるで、石になることよりもロックハートのことが重要であるかのような口ぶりだ。

「トンクス」

 クレアが非難するような声を上げた。トンクスはあからさまに、しまったと言いたげな顔をした。クレアは眉を吊り上げている。ソフィアはロックハートの何がそんなに触れてはいけない話題に繋がるのだろうかと去年に思いを馳せた。

 ソフィアは、去年の授業を思い出すだけでふつふつと怒りが湧いてくるようだった。ロックハートに惚れて付き纏う魔女役をやらされたことを思い出した。あの時のスリザリン生の馬鹿にするような笑いといったら!

「ロックハートは授業で演劇なんてさせてたのよ!」

 ソフィアは鼻息を荒げて言った。

「思ってたよりも、大変そうだね」

トンクスが乾いた笑いを漏らした。

「でもさ――」

「帰ったよ」

 トンクスの言葉はドウェインの帰宅で遮られた。玄関が開く音がして、ソフィアはリビングから玄関へと歩いて行った。

「おかえりなさい!」

 ソフィアがドウェインに抱きついた。ドウェインは数日間の任務で家を空けていたので、会うのは久しぶりだった。

「ただいま。あれ、お客様かな?」

 ドウェインはソフィアを抱き止めると、リビングから聞こえる話し声に首を傾げた。

「トンクスよ」

 ソフィアはリビングに続く扉を指差した。ドウェインは意外な客人に眼帯をつけていない方の目を丸くした。

「お邪魔してまーす」

 扉が開き、トンクスがひょっこりと顔を出した。にっこりと歯を見せて笑って、手を振っている。

「珍しいね」ドウェインが悪戯っぽく笑った。「休日も自主練を希望かな?」

「そんなわけないよ。もう杖一振りも動かせないくらいしごかれてるのに」トンクスが肩をすくめた。

「パパ、今度私の魔法の練習も見てほしいわ」

 二人の会話にソフィアが割り込んだ。闇の魔術に対する防衛術の授業で、ここ数年はろくに実技がなかった。去年の決闘クラブでも、先生から指導は受けられていない。そもそも、ロックハートとスネイプがまともな指導ができるのかも怪しかった。(後者はもちろん生徒への陰湿な嫌がらせという意味だ。)

「勿論いいさ。でも、急にどうしたんだい?」

 ソフィアの申し出に、ドウェインは意外そうに眉を上げた。

「誰かを守れるようになりたいの」

 大それた、夢見がちなことを言っているような気がして、ソフィアはどうしようもなく恥ずかしくなった。下を向きたい気持ちを抑えて、ソフィアは真っ直ぐにドウェインの目を見つめた。

 クィレルの死、ジニーの拉致――ソフィアはすべて予知夢で見ていたのに何もすることができなかった。それどころか、一昨年はクィレルに守られ、去年はハーマイオニーの知識のお陰で窮地を脱した。

 誰かを助けるどころか、ソフィアは周りの人に助けられてばかりだった。

「分かったよ。休み中に未成年は魔法を使えないから、理論だけだけどね」

 ドウェインは微笑むと、ソフィアの頭を優しく撫でた。

「それと、今年の先生は素晴らしい人だから、実技の心配もいらないよ」

 闇祓いの誰かだろうか。ソフィアが興味津々に誰か教えてと強請っても、ドウェインは首を振って笑うだけで教えてはくれなかった。


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