immature love | ナノ


▼ 目覚め4

 ソフィアは、夢の中での会話を思い出し、サァーっと血の気が引いた。ソフィアが話したトム・リドルは例のあの人だったなんて信じられなかった。ロンは、ソフィアがこの冒険劇に圧倒されていると思っているようだった。

「ソフィア、どうした?」フレッドが聞いた。

 ソフィアの顔は青ざめていた。

「私、一度その日記を拾ったの。その時一度だけ、夢の中で、トム・リドルに話しかけられたわ」ソフィアは震える声で続けた。「その時は夢の内容は忘れてて、それにそんな恐ろしいものだと知らなくて……ジニーに返しちゃった」

 ソフィアはしょんぼり小さくなった。あの時、ソフィアが先生に届けていたら、犠牲者もあれ以上出ず、ジニーも危険な目に遭わなかったかもしれない。

「気にするなよ」

 フレッドがソフィアの肩を抱き寄せた。幼馴染の時より急に近寄った距離感にソフィアは慌てて離れようとしたが、敵わなず諦めた。

「君がジニーを気にかけてやってくれてたのは、僕たち皆知ってるさ。誰だって、まさか闇の帝王が名前を変えて日記として活動してるなんて思わないよ」

 フレッドが励ますように言った。

「やあ、君もここの生徒なんですか?」

 空気を打ち破るように、ロックハートがニコニコと邪気のない笑顔で話しかけてきた。

「はい……ロックハート先生、どうかされたんですか?」

 ロックハートがこれまで余りにも静かで、存在を忘れていた。この一年間で考えられないことだった。ソフィアは、明らかに健常ではないロックハートに恐る恐る聞いた。

「本当に私は先生をやっていたんですね! 役立たずだったでしょう?」

 ロックハートが純粋そうな顔して聞いてくるので、ソフィアは返事に困った。もっともな質問だったから余計に答えづらかった。

「調子が悪いんだ。ちんぷんかんぷんさ」

 ロンがニヤリと笑って言った。詳しく聞けば、冒険劇の最中にロンに放とうとした忘却術が逆噴射してこのようになってしまったらしい。一歩間違えれば、ロンがこんな風になっていたのかもしれない。すぐにソフィアは同情するのをやめた。自業自得でしかない。

 近くのベッドで、ジャスティンやコリン、ハーマイオニーがベッドから起き上がる様子が見えた。ハーマイオニーも、ソフィアと一緒に石になってしまったに違いない。

 ロンがずんずんとジャスティンのところへ行った。

「ハリーが秘密の部屋の事件を解決したんだ」ロンが言った。「ちゃんと謝れよ! ハリー、君に疑われて傷ついてたんだ」

 ジャスティンは何が何だか分からないという顔をしていた。目覚めてすぐに言われても、到底理解できないだろうとソフィアは思った。

「あとであなたにも説明するわね、ジャスティン」ソフィアが笑いかけた。

「あれ、なんでここにいるの?」ジャスティンが動転したようにキョロキョロと、医務室に揃った不思議な面子を見て首を傾げた。

「私もあなたも石になったのよ」

 ソフィアは苦笑いした。

 マダム・ポンフリーに急かされ、ロンたちは医務室を追い出された。お祝いとして、宴会が開かれることになったらしい。フレッドは、医務室を出る前にもう一度ソフィアをぎゅっと抱きしめた。ジョージやロンが揶揄ってもお構いなしだった。

「もう二度と心配させないでくれよ」

 フレッドがソフィアの耳元で囁くと、離れて笑みを浮かべた。フレッドは、真っ赤になって固まったソフィアを置いて、ロンたちと一緒に出ていった。

 ソフィアも後から寮に戻って着替えてから(なにせ、 ソフィアは何週間もの間同じ服を着ていたのだから)、大広間の宴会に向かうことににした。

「 ソフィア!」

「ジャスティン!」

 寮に戻った瞬間、 ソフィアとジャスティンはもみくちゃにされた。髪型がぐしゃぐしゃだった。皆が良かったと ソフィアたちが戻って来たことを喜んでくれる。レティに至っては涙ぐんでいた。

 この人だかりに参加せず、ポツンと座っているセドリックが気にかかり、ソフィアは声をかけた。セドリックの目の前のソファに腰掛ける。セドリックは驚いたように姿勢を正した。そんな様子にくすくす笑う。

「試験がなくなったなんて信じられないわね」

「必死に詰め込んだのにな」セドリックが笑った。

 ちょっとした雑談を続けるといつもの様子に戻ってきたので、安心してシャワーを浴びてくると言って席を立った。

「君を一人で行かせたこと、後悔してるんだ。ごめんね」

 立ち上がったソフィアの腕を引き止めるように掴んだセドリックは、何故か彼自身も動揺しているように見えた。もしかしたらずっと謝りたかったのかもしれない。

「普通あそこで警戒しないわよ、気にしないで」

 セドリックは ソフィアが帰って来たら真っ先に回復を喜んでくれると思っていたので、これで疑問が解けた。 ソフィアに対して罪悪感を抱いていたのだろう。あの時、止めていればと後悔していたに違いない。

 気にしないでともう一度念を押し、今度こそソフィアはシャワーへ向かった。これから宴会があるのだから、早くシャワーは済ませてしまいたかった。鼻歌を歌いながら、 ソフィアは穴熊の巣を思わせる女子寮への洞窟を進んだ。

prev / next

[ back to top ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -