immature love | ナノ


▼ 目覚め3

 じわりと指先から暖かくなる。指先を少し動かすと、何か強い力が手を覆った。そこから伝わって来た熱が次第に腕、肩、胸――と広がっていく。熱が広がるとともに、動かなきゃとソフィアの頭の中は使命感に駆られた。

 目を開けた瞬間、真っ赤な物体が飛び込んで来て、ソフィアはベッドに打ち付けられた。目がチカチカする。瞬きを繰り返し、ぼんやりした視界が徐々に焦点が定まってくる。ソフィアは、自分の顔のすぐ近くにあるのはウィーズリー家特有の真っ赤な髪だと気付いた。

「フレッド?」ソフィアが恐る恐る聞いた。

「良かった……本当に、良かった……」フレッドが震えた声で言った。

「あれ、ここって」ソフィアの声が掠れる。

 喉がカラカラだった。身体もまるで石になったかのように硬い。ソフィアとフレッドは、真っ白のカーテンに囲まれた医務室のベッドにいた。

 今日はクィディッチ戦だった筈だ。ハッフルパフが惨敗を喫してから、一年待ち望んだ雪辱戦だった。それが、何故自分はベッドで寝ていて、グリフィンドールの選手であるフレッドがここにいるのだろうか。

 ここはカーテンに囲まれた医務室だった。横の椅子にはフレッドが半ば腰掛ける形で、ソフィアに抱きついている。一体何がどうしてこうなったというのだろうか。
 いくら思い出そうとしても、記憶がぼやけて思い出せない。セドリックと別れたところまで覚えてる。

 どこかで転んで頭でも打ったというのだろうか?

 何故ここにフレッドが?

 ソフィアの頭の中は疑問でいっぱいだった。

「待って、クィディッチ……もしかしてもう終わったの……? 負けてな――」

  ソフィアの疑問も、途中で途切れた。いや、止められたというのが正しいのか。視界いっぱいに広がる、そばかすだらけの顔と赤い前髪。唇だけが生々しい熱をソフィアに教えてくれたが、それはすぐ離れた。呆然と目の前の幼馴染を見つめる。

「え?」

「知ってたか? 三日後、学期末テストだぜ?」

 呆然としたままのソフィアに何事もなかったようにフレッドは悪戯っぽく笑う。ソフィアはキスされた事実やら、何故かテストが間近に迫っている事実に目を見開いた。驚きで固まるソフィアにもう一度、さっきと同じ触れるだけのキスが降る。

「心配させんなよ」

 フレッドにぎゅっと抱きしめられて、ソフィアはキスへの苦情やら疑問を飲み込んで、フレッドの頭を軽く撫でる。わからないことばかりだったが、一つだけ言わなくてはいけないことがあった。肩に手をやり、ソフィアはフレッドを引き剥がした。

「普通、キスより先に言うことあるんじゃないの?」

 ソフィアがじっとフレッドの目を見れば、耳を赤くしながらフレッドがにっこりと笑った。

「好き。俺と付き合わない?」

 ソフィアは返事の代わりに、目の前で耳だけじゃなく顔まで赤くさせた幼馴染に笑ってキスした。さっきまで、映画のようだったのに、急に現実に戻ったのか我に返って赤くなる幼馴染が大好きで仕方なかった。

 医務室のカーテンを開ければ、何故かロックハートや、ウィーズリー夫妻も含めたウィーズリー一家が勢揃いだった。ウィーズリー一家はジニーにかかりきりで、ジニーは泣き腫らした顔で、湯気の出ているマグカップをちびちびと飲んでいた。

 目を丸くするソフィアのすぐ近くで、ロンが指を口に入れて吐く真似をした。どうやら、ロンには全部聞かれていたらしい。ソフィアとフレッドは、共に顔を真っ赤に染めた。

「なんで、みんなここにいるの? クィディッチは?」ソフィアが聞いた。

「君、さっきからクィディッチのことしか言わないよな」フレッドが呆れたように言った。

「試合前に、ハーマイオニーと二人で石になってたのを発見されたんだよ」フレッドが言った。「試合は中止さ」

「そんな!」ソフィアは悲鳴を上げた。

「箒に乗れないくせに、なんでそんなにクィディッチが好きなんだ?」ジョージは首を傾げた。

「でも、なんでおばさんとおじさんまでいるの?」ソフィアはジョージを無視した。

 ロンが待ってましたとばかりに近づいて来た。

 ハリーが以前から姿なき声を聞いたこと、それが水道パイプの中を通るバジリスクだと、ハーマイオニーがついに気づいたこと、ハリーと四人でクモを追って森に入ったこと、アラゴグがバジリスクの最後の犠牲者がどこで死んだかを話してくれたこと、「嘆きのマートル」がその犠牲者ではないか、そして、トイレのどこかに、「秘密の部屋」の入口があるのではないかとハリーとロンで考えたこと……。

 トム・リドルが、例のあの人の学生の頃の名前ということを聞いてソフィアは悲鳴を上げて、彼の日記を使ってジニーに魔法をかけ、操ったことにもっと大きな声で悲鳴を上げた。秘密の部屋に拐われて、ハリーとロンで助けに行ったという話にソフィアはあんぐりと口を開け、声も出せなかった。ソフィアがいちいち大袈裟なくらい反応するので、フレッドは隣で面白そうに笑っていた。

prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -