▼ 目覚め2
「あたし、し、知らなかった」ジニーがまたしゃくり上げた。
「ミス・ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい」
ダンブルドアがジニーの話を遮った。
「苛酷な試練じゃったろう。処罰はなし。もっと年上の、もっと賢い魔法使いでさえ、ヴォルデモート卿にたぶらかされてきたのじゃ」
ダンブルドアはやさしくジニーを見下ろしていた。
「マダム・ポンフリーはまだ起きておる。マンドレイクのジュースをみんなに飲ませたところでな。――きっと、バジリスクの犠牲者たちが、いまにも目を覚ますじゃろう」
「俺も医務室に行っていいですか」
フレッドが恥ずかしさを押し殺して手を挙げた。全員の疑問を含んだ視線が集中したが、ダンブルドアは笑って許可を出した。
「あなた、まさか怪我をしてるんじゃ!」
モリーが悲鳴を上げて、フレッドの両肩を掴んだ。じろじろと視線を上から下まで往復させる。
「大丈夫だよ、ママ」ジョージが呆れたような声を上げた。「こいつ、ソフィアに早く会いたくて仕方ないだけだよ」
部屋の空気が奇妙に生暖かくなった。大人たちの(ロックハートは除く)微笑ましいものを見るような視線がフレッドに集中し、顔から火が出そうだった。フレッドは未だしゃくりあげるジニーと手を繋ぎ、我先に部屋を飛び出した。
医務室に着くと、マダム・ポンフリーはいい顔をしなかった。衛生的ではないと言って頑なにソフィアのところに近づけないので、フレッドは大慌てで医務室の持っているTシャツとデニムを借りて着替えた。
フレッドはすぐさまソフィアのそばに張り付いた。まだソフィアはカチコチに固まっていて、こちらが何を話しかけても聞こえていない様子だった。
暫くすると、ジョージとロンがロックハートを連れてやって来た。ロックハートの酷い有様に、マダム・ポンフリーは驚いていた。そしてヌルヌルに汚れた人間がさらに三人も来たことに一瞬嫌な顔をした。
「俺ら『ホグワーツ特別功労賞』が授与されるって」ジョージが言った。「信じられないよな」
ロンは静かだが、その分顔は真っ赤だった。
「それって俺も貰えるのかな」フレッドが、茶化して聞いた。
モリーとアーサーは、息子が三人も賞を受賞するかもしれないと聞いて倒れそうだった。フレッドはすぐに話を切り上げて、ソフィアの枕元に舞い戻った。
「早く治ってくれよ」
フレッドは祈るように言った。マダム・ポンフリーが先程飲ませたので時期に効いてくると言っていたが、一分一秒が長く感じられ、待ち遠しかった。
少しでも回復が早まらないかと、フレッドは意味もなくソフィアの両手を自分の手で優しく擦り温めた。自分の手の体温が移っただけで、すぐに冷めてしまう。フレッドは両手で大切にソフィアの右手を包み込んだ。
手の中で、ピクリと動いた感触があった。
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