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▼ 禁じられた森3

 車が斜面を駆け降りていくと、ヘッドライトに照らされた先にハリーとロンが大量のクモに囲まれている姿が見えた。このままでは間に合わないかもしれない。フレッドは、咄嗟にアクセルを踏み込み、ハンドルを握った。車は素直にフレッドの言うことを聞いて、斜面を箒で空を直滑降するように勢いよく滑り降りた。

 クモを何匹も轢きながら、フレッドはアクセルをさらに踏み込んで斜面を下った。ハリーとロンの近くまで行き、ハンドルを横に切って急停車する。

「乗れ!」

 ジョージが叫んで、杖で後部座席の扉を開けた。

 ハリーとロン、それにロンに抱えられたファングが後部座席に飛び込んだことを確認して、フレッドはアクセルを踏み込んだ。

 クモを轢き殺す勢いで車を加速させたが、クモは何匹も猛スピードで走る車にぶつかってもひっくり返るだけだった。バッグミラー越しに追いかけてくるクモが見えた。

「あいつらタフだな」フレッドが呑気に言った。

 車は坂を猛スピードで駆け上がり、窪地を抜け出し、まもなく森の中へと突っ込んだ。太い木の横をすれすれで通った時に、助手席側のサイドミラーが折れた。開けた道はないかとフレッドが考えたことを察知したのか、車が勝手にハンドルを切りはじめた。車はどうやら自分の知っている道らしく、巧みに空間の広く空いているところを通った。

「大丈夫か?」

 ジョージが後部座席を振り返った。ハリーもロンも、まだ口は開きっぱなしで、声にならない叫びの形のままだった。犬と一緒に二人と一匹で抱き合っている。

「秘密の部屋について何か分かったか?」

 フレッドが聞いたが、二人はようやく瞬きできるようにまで回復しただけだったので、返事はなかった。

 大きな樫の木の脇を無理やりすり抜ける時、フレッド側のサイドミラーがポッキリ折れた。サイドミラーは、フレッドが先程もう一方を折っていたので全滅した。

 木立がまばらになり、森の出口に近づいてきたことが分かった。バックミラーを見ても、もうクモはいない。車が急停車し、フレッドとジョージはフロントガラスにぶつかりそうになった。ファングが前方座席に飛び出そうとしたのを、ハリーが飛びついて止めていた。

 全員が降りると、車はまた森の中へと走り去って行った。四人は、よたよたと足を引きずってハグリッドの小屋へ戻った。異常に疲れていた。ロンの顔は真っ青で、かぼちゃ畑でゲーゲー吐いていた。

「ナメクジは吐いてないよな?」

 フレッドが念のため聞いたが、ロンは無視してもう一度吐きはじめた。

「俺たち先に戻ってるぜ」きりがないと判断ひたのか、ジョージが言った。「談話室まで面倒見る必要は流石にないよな?」

「うん、ありがとう」ハリーが言った。

 ハリーの手元には、よくハリーが持っているのを見かけるマントがあった。このマントに、先生達のすぐそばを通り過ぎて真夜中の外出を実現させる秘密があるのだろう。

 ハリーが聞いて欲しくなさそうだったので、フレッドとジョージは二人で抜け道を使って談話室に戻った。暫く後に談話室に戻ってきたハリーとロンが寝室に行きたがるのを、ジョージが羽交い締めにした。

 談話室はハリー達の他に誰もいなかったが、暖炉の火はかろうじて燃えていた。四人で暖炉の前の椅子に腰掛けた。

「クモを追いかけて何か分かったのか?」ジョージが聞いた。

「五十年前にも部屋が開かれて、その時は女の子がトイレで死んでるのが見つかったって」ハリーが言った。

「おい、部屋が前も開いたことがあるのか? それも死人が出たって?」

 フレッドは驚いて声を上げた。ソフィアも一歩間違えれば本当に死んでいた可能性があったのかと思うと、フレッドの血の気がひいた。

「五十年前にね。その時、ハグリッドが犯人と間違えられたから、今回も連れてかれたんだ」ハリーは頷いた。

 ハグリッドを逮捕するなんて魔法省はトチ狂ったに違いないとフレッドは思っていたが、(実際は無実とはいえ)ハグリッドに前科があったことに驚いた。

「ハグリッドが学生の頃に巨大な肉食グモ……アラゴグを隠れて飼ってて、秘密の部屋の犯人と間違えられたんだってさ」ロンが皮肉たっぷりに言った。「あいつらがビビって逃げ出すくらいの怪物が他にいるって、ご丁寧にビビって逃げ出そうとする僕らを殺そうとしながら教えてくれたよ」

「じゃあ、ハグリッドは無実で、クモ以外にも怪物がいて、そいつはトイレで人殺しをする悪趣味野郎ってことが分かったってわけか」ジョージが呆れたように言った。

「大収穫じゃないか」フレッドは目をグルリと回した。「死にかけてまでクモを追いかけた甲斐があったってもんだよな」

「今日はそれしか収穫がなかったけど、他にも気になることがあるんだよ」ハリーが前のめりになって言った。

 ハリーとロンは、すっかりフレッドとジョージを事件解決に向けた仲間と認識したらしい。ハリーは、秘密の部屋について今まで分かったことを説明した。ハリーだけに姿なき声が聞こえること、トム・リドルの日記のこと……フレッドとジョージは静かに聞いた。

「脳みそがどこにあるかも分からないやつの話を信じるのは危ないぜ」フレッドが驚いて声を上げた。

「その日記も怪しいよな」ジョージが考え込むように言った。「部屋がまた開いた時に、前回開いた時の功労者の日記がそこら辺に落ちてるなんて都合良すぎる」

「じゃあ、日記を持ってる奴が犯人ってこと?」ロンが声を上げた。

「日記は僕の寝室から盗まれたんだ」ハリーが言いづらそうに続けた。「グリフィンドール生しか寮には入れない筈だから……」

「犯人はスリザリンに違いないから、その案は却下だな」フレッドがおどけたように言った。「もう四時だ。続きは少しでも寝てからにしよう」

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