▼ 再戦5
フレッドは地図を覗き込んだ。大半の人はまだクィディッチ競技場で駄々を捏ねているので、ハリーとセドリックを探すことは簡単だった。
ハリーたちは、驚くべきことに、マクゴナガルとスプラウトに付き添われて医務室にいた。(なぜかロンも一緒ないた。)その近くにある名前に、フレッドとジョージは顔を見合わせた。
ソフィア・アスターとハーマイオニー・グレンジャーの名前があった。ジャスティン・フィンチ-フレッチリーやコリン・クリーピーと等間隔に並んでいる。
襲われたんだ。フレッドの心臓が、握りつぶされたように痛んだ。フレッドは転がるように部屋を飛び出して、廊下を走り、階段を駆け降りていく。後ろから足音が聞こえ、ジョージもフレッドを追いかけて来ていることがわかった。
医務室の扉を、フレッドは勢いよく開けた。中にいた先生や生徒が驚いたように目を丸くしてフレッドの方を見た。セドリックが立つすぐそばのベッドに、生徒が横たわっていた。
「ソフィア!」
長い巻き毛のブロンドの女子生徒は、ベッドの上でピクリとも反応しなかった。フレッドが見間違えるはずもない。彼女は、ソフィア・アスターだった。
フレッドは、マクゴナガルが止める間も無く、ソフィアのベッドの元に走り寄った。セドリックも、眉を下げてフレッドのために場所を開けた。フレッドの顔は、誰も見たことがないほど青褪めていた。
フレッドは何て声をかければいいのか分からなかった。ソフィアは身動きせず、固まっている。見開いた瞼の奥に覗く目は、ガラス玉のようだった。
「なんでソフィアが」
ジョージがフレッドの隣に並び、呆然とつぶやいた。
「また襲われました……アスターとグレンジャー二人一緒にです」マクゴナガル先生が言った。「二人は図書室の近くで発見されました」
「これが何だか説明できないでしょうね? 二人のそばの床に落ちていたのですが……」
マクゴナガルは小さな丸い鏡を手にしていた。
「俺がソフィアにあげたやつだ」フレッドが呟いた。「でも、ただの手鏡だ。何の仕掛けもないよ」
この場にいる誰も検討がつかないようだった。フレッドは、思わずソフィアの手を触った。いつも子供のように高い体温はいまは冷たく、肌もカチカチでまるで彫刻を触っている気分だった。
「僕がソフィアを一人で行かせなければ、こんな事には……ごめん」
フレッドは神経が焼き切れそうだった。マグル生まれのソフィアを一人にするなんて、何考えてるんだ。なんで俺じゃなくてお前が呼ばれるんだ。当たり前のように自分の責任みたいな顔をするんじゃねえ――フレッドの頭の中に浮かぶセドリックに投げつけたい言葉はどれも意地悪く、そして嫉妬が滲んでいて醜かった。
「お前のせいじゃないだろ」
黙り込んだフレッドの代わりに、ジョージが言った。みんなの視線を集めていることは承知していたが、フレッドは頑なに口を閉じた。今開けば、間違いなく口汚く罵ってしまう。ソフィアが眠る隣りで、そんな姿を晒したくはなかった。
「グリフィンドール塔まであなたたちを送っていきましょう」
マクゴナガル先生は重苦しい口調で言った。
「私も、いずれにせよ生徒たちに説明しないとなりません」
グリフィンドール寮の談話室は、人でごった返していた。人の多さに反して、談話室は静まり返っていた。マクゴナガルが、羊皮紙を広げて読み上げた。みんな真剣に耳を傾けていた。
「全校生徒は夕方六時までに、各寮の談話室に戻るように。それ以後はけっして寮を出てはなりません。授業に行く時は、必ず先生が一人引率します。トイレに行く時は、必ず先生に付き添ってもらうこと。クィディッチの練習も試合も、すべて延期です。夕方はいっさい、クラブ活動をしてはなりません」
読み終えた紙をくるくる巻きながら、少し声を詰まらせて続けた。
「言うまでもないことですが、私はこれほど落胆したことはありません。これまでの襲撃事件の犯人が捕まらないかぎり、学校が閉鎖される可能性もあります。犯人について何か心当たりがある生徒は申し出るよう強く望みます」
マクゴナガルは、いつも糸から吊るされたように姿勢が良いが、今回ばかりは油を差していないブリキ人形のようなぎこちなさで、よろよろと肖像画の裏の穴から出て行った。
リーがみんなに向けて犯人の推理を披露し始めたが、フレッドは聞く気になれず、寝室に一人戻った。ベッドのカーテンを閉め切って、フレッドは枕を抱えて座った。
ソフィアが横たわっている姿が頭から離れない。マンドレイクの刈り取りの時期も近く、ソフィアが治る日も近いと分かっていても、ショックが大きかった。
瞼を閉じて横になると、笑ったり、怒ったり、表情をくるくる変えるソフィアが思い浮かんだ。ソフィアは小さい頃から、一つ一つのことに感情を顕にして、思っていることがすぐ顔に出る。医務室のベッドに横たわっているソフィアが浮かべた、恐怖に慄いた表情が脳裏に浮かんだ。ずっと一緒にいたが、あんな顔は見たことがない。その事実が、フレッドの心に重苦しさを与えた。胸が締め付けられれように痛む。
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