immature love | ナノ


▼ 再戦3

 図書室に着くと、ハーマイオニーは迷いなく、たくさん並んでいる内の一つの棚に近づく。指で本を順に辿り、一冊の本を取り出した。「幻の動物とその生息地」だ。

 その本の名前に覚えがあり、 ソフィアは自身の記憶を辿る。その間も、ハーマイオニーはとてつもないスピードで本のページを捲っていた。

「ニュート・スキャマンダーが書いた本よね! それ!」

 思い出した。スキャマンダーは、ハッフルパフ出身の著名人のうちの一人だ。声を弾ませソフィアは言うが、ハーマイオニーはおざなりに「そうね」とだけ返した。視線は本から全く動いていなかった。

「あった、これだわ」

 ハーマイオニーが何か見つけたようで、興奮したようにそのページをソフィアに見せる。 ソフィアは目を丸くして、それを見つめた。

 
 我らが世界を徘徊する多くの怪獣、怪物の中でも、最も珍しく、最も破壊的であるという点で、バジリスクの右に出るものはない。『毒蛇の王』とも呼ばれる。この蛇は巨大に成長することがあり、何百年も生き長らえることがある。鶏の卵から生まれ、ヒキガエルの腹の下で孵化される。殺しの方法は非常に珍しく、毒牙による殺傷とは別に、バジリスクのひと睨みは致命的である。その眼からの光線に捕らわれた者は即死する。蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前触れである。なぜならバジリスクは蜘蛛の天敵だからである。バジリスクにとって致命的なものは雄鶏が時をつくる声で、唯一それからは逃げ出す。

 
「でも、こんな大蛇が城を移動してたら絶対に騒ぎになるわ」ソフィアが言った。

「配管を使ってたんだわ」ハーマイオニーが本のページに恐れ多くもパイプと書き込んだ。「ハリーだけが聞こえる声も納得だわ。ハリーはパーセルマウスなんだもの!」

「でも、バジリスクに睨まれたら即死よ?」ソフィアが恐る恐る聞いた。

「うーん……多分、誰も直接見てないのよ。コリンはカメラ、ジャスティンは『ほとんど首無しニック』を通して見たんだわ。ニックはそもそも死んでるし」ハーマイオニーが言った。

 ソフィアは頭の中にハロウィーンの夜を思い浮かべた。

「ミセス・ノリスは水だわ。廊下が水浸しだったもの」ソフィアが言った。

 恐ろしさに背筋が震えた。全員もしかすると死んでいたかもしれない。ただ幸運だったから石になるだけで済んだのだ。

「あの人がバジリスクを操れるように思えないわ……」ハーマイオニーが考え込むように呟いた。

「あの人?」ソフィアが聞いた。

「何でもないわ」ハーマイオニーの声は奇妙に高かった。「トム・リドルはどうやって犯人を突き止めたんでしょうね」

 トム・リドルという名前が引っかかった。日記とトロフィーに刻まれた名前だけでこんなに印象に残るだろうか。拭いきれない違和感に、ソフィアはバジリスクの挿絵を見ながら考えた。

 蛇が絡み合う彫刻が施された石の柱が立ち並ぶ部屋を思い出した。あの部屋は、やはり秘密の部屋なのだろうか。でも、ジニーとハリーは何故あの部屋にいたのだろう?


 ――あなた、誰?

 ――僕はトム・リドル。僕の日記を拾っただろう。


「あ!」

 ソフィアは慌てて口元を押さえた。心臓の音だけでも騒音に近い気がする。マダム・ピンスが近くにいなくてよかったとソフィアは思った。

 あの部屋を見たのは一度だけではなかった。ハリーとジニーがいた予知夢の前に、ソフィアは一度あの部屋で少年と会話している。

 あれは日記が手元にある時に一度だけ見た夢だ。もしかすると、日記が見せたのかもしれない。意志を持って返事をするほど高度な魔法が施されているのだから、他に精神干渉の魔法が埋め込まれていてもおかしくはないとソフィアは思った。

 五十年前の事件の功労者の日記が、再び同じ事件が起きているときに見つかるなんて、出来過ぎではないだろうか。ソフィアが見た夢が予知夢なら、ジニーとハリーは秘密の部屋に行くことになる。日記を手にした二人が、だ。ただの偶然とは思えず、ソフィアは胸騒ぎがした。

「どうかした?」

 ハーマイオニーが本からバジリスクについて書かれたページを破り取りながら聞いた。 ハーマイオニーの悪事にソフィアは驚いた。図書館の本を破ることに、ちっとも躊躇いを感じられなかった。

「ジニーを探さないと」

 ソフィアの脳裏に、力無く横たわっていたジニーの姿が浮かんだ。ソフィアは切羽詰まったように続けた。

「実は、私も日記を見たことがあるの。ジニーが持っていたのよ」

「そうなの?」ハーマイオニーが口をあんぐり開けた。「何か知ってるかもしれないわね」

 ソフィアは慌ててポケットを探って、小さな化粧ポーチから丸い手鏡を取り出した。

「これを見ながら移動しましょ」ソフィアはすっかり怯えていた。

「ソフィアは純血なのに?」不思議そうな表情を浮かべたハーマイオニーだったが、頷いた。

 もし、ジニーが何か巻き込まれていたとしたら、ソフィアがマグル生まれと知られている。それに、日記の存在を知っているマグル生まれが二人揃っているだなんて、今の状況はいかにも狙われそうだと思った。

 ソフィアは鏡を持って、ニ人で覗き込みながら図書館を出た。鏡を確認しながら歩くとは、不思議な感覚だった。

 図書館を出て、角を曲がる前に鏡を見たその瞬間。
 黄色い目が、こちらを見ていた――。

prev / next

[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -