▼ バレンタイン4
小人たちは一日中教室に乱入し、バレンタイン・カードを配って先生たちをうんざりさせた。マクゴナガルの授業中でも、入って来てカードを渡す。この授業中だけで、セドリックは既に三回も渡されていた。
カードを受け取るたびに、小さい声で「すみません」と先生に謝るので、流石のマクゴナガルも憐れみの目をセドリックに向けている。たまに朗読までされると、セドリックは顔から火が出そうなくらい赤くした。
なにやらハリーは、カードや朗読どころか小人に歌のプレゼントを配達されたらしいということは、学校中で笑いのネタとして広がった。さらに不幸なことに、差出人はグリフィンドールの一年生、ジニー・ウィーズリーという噂も広がった。
「よお、ソフィア」
昼休み、大広間のハッフルパフのテーブルまでフレッドとジョージが来た。嫌な予感にソフィアは逃げ出そうとしたが、ジョージががっちりと肩を押さえて座らせた。フレッドとジョージはありったけの大声で歌った。
あなたの目は青緑、まるで海底のワカメのよう
あなたの髪はブロンド、ロックハートにそっくり
あなたがおれたちのものならいいのに。あなたは素敵
泣いただけで四十点も減点されてる。あなたは伝説
もはや怒鳴り声で中傷される方がマシだった。ソフィアが金切り声で悲鳴を上げなかっただけでも、マーリン勲章を受賞しても良い功績のように思えた。
フレッドから何かバレンタインカードが貰えるんじゃないかと期待してたソフィアは、悪魔の罠に突き落とされた気分だになった。そうだ、自分が好きになった男はこういうやつだった。ソフィアは今更思い出した。
「ウィーズリー、さすがに悪趣味だ」
セドリックが珍しく眉をしかめ、厳しい口調で言った。
「何だよ」フレッドは不機嫌に言った。「あーあ、誰かのせいでつまらなくなった」
双子は自分達のジョークに水を差されたことにぼやきながらグリフィンドールのテーブルへ戻ってしまった。その後ろ姿を見て、セドリックは申し訳なさそうにソフィアに謝った。
「ごめんね。でもああいうの許せなかったんだ。ソフィアにも、ポッターに歌を送った子にも、失礼だよ。可哀想だ」
「全然平気よ。むしろ助かったくらい」
ソフィアは頷いた。
流石セドリックだとソフィアは驚き、心の底から感心していた。今日一日だけでも、セドリックは相当な苦難を強いられている。もらったカードの数が尋常ではないし、授業中人前で渡され囃し立てられたり、笑われたりもしていた。
それでも、今にも死にそうなくらい恥ずかしそうにしていても、カードを乱暴に扱わずしっかりと鞄に入れるのだ。周りと合わせて笑いもしなかった。自分を差し置いて、送り主を気遣えることはセドリックの美徳だ。あげた人もきっと幸せな筈だ。
「そうだ! きっと図書館まで小人は追ってこられないわ。図書館に行かない?」
このままじゃセドリックが過労死しかねない。そう思ったソフィアはにっこりと笑顔を浮かべてセドリックを誘うことにした。
「いいね。いまから行く?」
セドリックは乗り気だった。地獄に落ちてきた蜘蛛の糸のように思えたのかもしれない。
「あ、ちょっと待って」
ソフィアは大急ぎで鞄から羊皮紙を出して適当なサイズに千切った。
フレッド、あなたっていつもかっこいいわ。
四歳の頃おもらししても、雨が降っただけと笑って誤魔化そうとしていたわね。
今でも昨日のことのように思い出せるの。
ジョージ、あなたもかっこいいわ。
フレッドのおもちゃの箒を壊した時、ロンのせいにしてたわよね。
責任転嫁が上手くって、スリザリン並みの卑怯者だと思ったけど、あなたの機転が効くところがとても素敵よ。
ソフィアは、それこそ双子と赤ん坊の頃から一緒にいた。失態は数えきれないくらい知っている。ソフィアは思い出せる限りのフレッドとジョージの「素敵なところ」を書き連ねた。
セドリックが覗き込んで、引き攣った微妙な笑い声を上げた。
「ねえ、そこのあなた! これをフレッドとジョージに届けて貰える?」
ソフィアは今書いたばかりの羊皮紙を小人に渡した。
「周りにアピールしたいから、それはもう城中に響き渡る大声で朗読してちょうだい」
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